JKに振り回されても鬼灯は冷徹 | ナノ


  よい子へのご褒美は桃の味


鬼灯は頭を抱えていた。
上司のせいで積もりに積もった仕事のせいもあるが他にもう一つ。

「ねーえ!鬼灯〜まい暇なんですけど。ここ飽きたんですけど」

こう机の前で物欲しそうにウロウロされては進むものも進まない。
まいはまいで最初の数日は楽しかったこの閻魔殿の散策もそろそろ飽きがきたころだ。
最初のうちは遊んでくれた唐瓜と茄子も仕事があるので自分の持ち場へ帰っていった。

「見てわかりませんか、私も忙しいんですよ。」
「鬼灯がまいを満足させてくれるんでしょ?まいずっと待ってるのになー」

わかっている。彼女の転生のためには自分か彼女を満足させてやらないとならないこと、
しかしそれをするにも自分には時間が足りないのだ。
向けようの無い怒りはだいたい閻魔大王に向けられる。
閻魔大王は刺さる視線を感じないように一心不乱に仕事に取り組んだ。

「まいさんすいません。ちょっと通るのでどいていただけますか?」

鬼灯は書きあがった書類をつみあがった書類の山の上に置くと、今度は山ごと持ち上げていそいそと移動を始める。
机にスペースが空いたと思うとまた次は新しい書類の山を抱えて帰ってくる。
そんな様子を何回かみたあとまいはおもむろに

「ねぇ、次ソレが書き終わったらまいが持って行ってあげる。」

ピタッと鬼灯の手が止まり、少し目を見開いて顔を上げた。

「なんですかいきなり」
「だって、鬼灯忙しそうだもん。まいは暇だし。
鬼灯は少し楽になるしまいは暇が潰せるし、仕事も早く終わるし。」

我ながらいい考えだとまいは思った。
彼が軽々と持ち上げる書類の山を持った。

「はぁ!? おもっ!!」
「…無理しなくてもいいですよ。お気持ちだけでも、」
「いいの!!これぐらい持てるから!これはドコにもっていくの?」
「それは大王の机ですからすぐそこです。」

「はいはーい」と軽く返事したあとヨタヨタと歩き出す。
その姿が滑稽で可愛らしく鬼灯の顔つきも心なしか柔らかくなった。

―――とっぷり日が暮れたあとやつれ顔の鬼灯の元にヨロヨロになったまいが帰ってきた。
何往復もして足はまるで生まれたてのシカのようにカクカクしている。

「お疲れ様です。今日の仕事は終わりです。」

鬼灯の声にまいの目に光が戻り始める。
鬼灯もそれをみて

「助かりました。私だけではまだ終わっていなかったでしょうし」
「はい、ご褒美は?」

まいは両の手のひらを前に突き出しにっこりと微笑んだ。
鬼灯の柔らかい顔つきがこわばる。

「まいすごいがんばってたし、鬼灯も助かったし。
今日のまいの労働に見合うだけのご褒美をくれるのが筋でしょ?」
「それが目上の人への態度ですか?」
「目上の人ならなおさらじゃん」

鬼灯は凄みにもまったく動じないまいを一瞥したあと、机の引き出しをあさりだした。
そしてピンク色の包みの飴を差し出す。


「…なにこれ」
「何って、まいさんが要求した労働に見合うだけのご褒美ですよ。」
「し、信じられないっ!子供の夢が壊れたっ!この鬼!」
「子供ならなおさら飴で十分です。しかも鬼ですし」

言い返す言葉を捜して地団駄を踏むまいの目の前で鬼灯は包みを開けて飴をまいの口の前に差し出す。

「やだっ!飴なんていらない!」
「なんてこと言うんです。よく見なさい、桃味ですよ」
「どうでもいいし!子供だけど高校生なんだから〜!」
「じゃあもう結構です。」

そういうと鬼灯は差し出した飴を自分の口の中へほうり込んだ。

「あーーー!まいの飴!!」
「いらないって言ったでしょう。」
「言ったけどやっぱりいるっ!んむっ!?」

一瞬の出来事だった。
鬼灯の唇が押し当てられ強引に口をこじ開けるとまいの口の中に桃の味が広がった。
少し名残惜しそうに唇が離れると

「高校生なんて子供ですよ、子供にはこれで十分です。
今日はお疲れ様でした。おやすみなさい」

状況が把握できないまいの頬を一撫でしたあと鬼灯は自室へと帰っていった。
桃の味が消えても唇の熱は消えなかった。


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