JKに振り回されても鬼灯は冷徹 | ナノ


  夏のあなたと綿飴事情 前の幕



どこからか陽気なお囃子が聞こえてくる。
毎日そこかしこで聞こえる亡者のうめき声はどこへやら、軽快な笛の音と太鼓の音に包まれる。
薄暗くどんよりとした地獄の風景も沢山の提灯に照らされて美しくもどこか儚いような幻想的な空間になる。
己の罪に苦しむ亡者もおらずいつもおっかない顔で刑場を彷徨く獄卒たちも涼しげな浴衣に身を包み屋台の品を嬉々として眺めている。

今はお盆。地獄のオフシーズンである。
年中働く獄卒たちもこの時期だけは花街のあたりで毎夜のごとく開かれるお祭りを楽しんでいる。


「鬼灯さまーーーー!」


そう、いつもは仕事の虫の彼も今日は決して似合うとは言いがたいお面をかぶって祭りを楽しんでいる。


「どうも、唐瓜さん、茄子さん。」
「鬼灯様、俺らの想像以上に楽しんでいらっしゃるんですね…」
「当たり前でしょう。獄卒といえど、適度な休息は大切なんです。」


そういって手に持っていたりんご飴を齧る。


「そういえばまいちゃんは一緒じゃないんですね。」


唐瓜が「まい」と言う名前を出した瞬間に鬼灯の眉間に深くしわが寄る。
やばい、地雷を踏んだと思わす肩に力が入る。


「知りません、自分から祭りに行こうと誘っておいていざ時間になっても来ないわ連絡も取れないわ…彼女の考えていることは私にはさっぱり理解しがたいです。」
「それで置いてきちゃったワケ!?あーあ、かわいそうまいちゃん」


いつの間に現れたのやら、白澤が自身の毛先をくるくるといじりながらわざとらしくため息をついた。


「レディの支度は準備がかかるものなのに…お前ってほんとに分かってないよね。僕ならまいちゃんのためなら何時間でも待てるよ」
「…私は時間にルーズなのが嫌いなんです。社会人として通用しません。っていうかいつからいたんですか」
「かーっ!これだから頭の固い男は嫌だね〜、ずっと後ろにいたけど。なんだかんだで僕の気配も分からないぐらいお前も気になってるんじゃない?」
「私をあなたと同じ色ボケしてると思わないでくださ
「おっ!あの角の屋台の前にいる女の子可愛くない?後ろ姿だけでもあれは相当レベル高いな〜」


鬼灯の嫌味を遮り白澤は角の屋台で人を待っているらしき浴衣の女性に向かって小走りする。
嫌なものでも見たかのような顔で彼の行き先を見た鬼灯だが次の瞬間顔色を変えて走り出す。


「え!?ちょっ…鬼灯様〜!!」


唐瓜も茄子もつられて走り出す。
浮き足立った白澤を追い抜かして浴衣の女性に近づくと気配に気づいたのか浴衣の女性がゆっくりと振り返る。
浴衣を着ていたのはまいであったのを鬼灯は見抜いて白澤よりも先に彼女のもとへ駆け寄るがまいは一瞬笑顔を見せたかと思うとすぐに険しい顔つきになって手に持っていた綿菓子を思いっきり鬼灯の顔面に投げつける。


「ばかーーー!!なんでまいのこと置いてくのよー!!」
「…」
「行ったらもう鬼灯様は出かけられましたよって言われてまいがどれだけ困ったか分かってる!?」


綿菓子は鬼灯の肌の熱で少し溶けて砂糖菓子のかけらが顔にくっついている。


「ブフー!!あっはははは、最高だよまいちゃん!」


目の敵が顔に綿菓子をぶつけられた姿がよっぽど彼のお気に召したのか、白澤は楽しくってしょうがないという顔で笑い転げる。



「待ってたのに、ですか。全く同じ台詞を言わせていただきますよ。時間になっても来なかったのはどちらですか。」
「分かってないなぁ。さっきから僕も言っただろ?レディの用意には時間がかかるもんなんだよ。」
「そう!白澤さま分かってる!!」
「でしょー、それにしてもまいちゃん浴衣新鮮だね〜。こんなに可愛いまいちゃんがきてくれるなら僕は何時まででも待てるなぁ〜」


プチン


何かが切れたような音がしたかと思うと鬼灯はまいの手首の辺りをつかんでズンズンと引っ張っていく。


「ちょ、ななな…!何!?」
「おいっ!お前まいちゃんどこに連れて行くんだよ!」


比較的に人の少ない屋台の通りの端までまいをつれてくると鬼灯はようやくその手を離した。
まいの腕には鬼灯の節ばった指の後がくっきりと残っている。


「もう一度聞きます。私は時間通りに待っていました。何時までたっても来ないので先に祭りにいきました。まいの姿を見つけたので駆け寄りました。するとあなたは私に綿菓子を投げつけました。…私が悪いですか?」


そういって威厳たっぷりに鬼灯はまいを見下ろす。
まいも腕を組んでもう一度ゆっくり考えると、


「鬼灯、そんなに悪くなかったかも。まいが悪かった。ごめんなさい。」


そこまで聞くと鬼灯の目にも満足そうな光が宿る。
普段から表情が読み取れない彼だが今日はしっかりと顔に「分かればいいんです」と書かれているようである。


「じゃあ、みんなの所に戻ろっか!」
「まい、何か忘れてませんか?」
「へ?」


他に何をしたんだろうか?
頭の中の心当たりを必死に探すが特に他には見当たらない。


「な、なに?」
「あなた、私に綿菓子投げつけましたよね?」


鬼灯は自分の頬をトントンとたたいて


「またべたべたが残ってるんです。綺麗にしてください。舐めて」
「な…なめっ…!?」
「綿菓子ですから平気です。さぁどうぞ?」

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