風邪をひかぬとは限らない
頭が痛い。
今朝からの頭痛はおさまることなくむしろだんだん酷くなりつつある。
心なしか悪寒も…
「まい。今日は大人しいですね。なにかあったんですか?」
机の上で書類に目を通している鬼灯が書類越しにまいを見つめる。
「『今日は』ってなによ。いつもお利口じゃん。」
「…ならいいんですが、」
そういってまた鬼灯は書類に視線を戻す。
いつもならこんなつまらないところに長居せずにあちこち動き回る物だがあまりの倦怠感に壁にもたれたまま動けない。
いつか牛頭・馬頭が言っていた「頭のなかをジェイソンがマッハで切り刻んでる感じ」という台詞が頭にふと浮かんだ。
あぁ、まさにそれだ。
もはや立っていることも苦しく壁にもたれたままズルズルと崩れ落ちた。
「…!?まい…?まい…!」
鬼灯の声が頭の中にぐわんぐわんと響いたかと思うとその声はだんだん小さくなって視界が真っ暗になった。
…どれぐらい経ったのだろう。
次にまいが目覚めたのは温かい布団の中だった。
本や書類が積み上げられモノで溢れかえった部屋、布団からかすかに香るこの大好きな匂いでまいは鬼灯の部屋にいるのだと理解した。
慌てて体を起こすがすぐに鈍い頭の痛みに「うっ」とつぶやいてまた布団に倒れこむ。
「起きましたか」
部屋の入り口には鬼灯が立っておりそのまままいのいるベッドへ近づいてきた。
まだ湯気が立っているお粥を机に置くとベッドの端に腰を下ろした。
まいも頭を抑えながらゆっくりと起き上がる。
「鬼灯…」
「風邪、だそうですよ。」
「風邪?まいが?」
「当たり前です、あなた以外にどこに病人がいるんですか。」
「そりゃ、そうだけど…まい死んでるのに病気になるの?」
「私も初耳でした。まぁ現世は今猛烈に病が流行っているようですしね。おおかた、閻魔庁に来た亡者のウイルスでももらったんでしょう。」
死んでいるのに病にはかかるなんておかしな話だ。
「このような事は私も初めてでしたので不本意ながら白澤さんに聞いたところ鬼用の薬は人間の亡者には強すぎるかも知れないとの事でしたので自己回復を待つしかないそうです。あ、お粥食べます?」
「いい、今食べたら確実に吐く…。それより、お仕事の邪魔してゴメンね」
本心だった。こうして自分を看病する時間も惜しいほど鬼灯は忙しい。こうやって彼のベッドを占領しているのもひどく申し訳なく感じた。
まいの言葉に鬼灯は少し目を丸くして驚いていた、しかし
「かまいません、どうせ元気でも問題を起こして邪魔してるんですから」
「…!なによっ人がせっかくしおらしく謝ってるのに!」
いつものように鬼灯に言葉にかみつくと鬼灯はフッと笑ってまいの頭をくしゃくしゃとなでる。
「それだけ元気ならもうすぐに治るでしょう。落ち着いたらお粥、食べてくださいね。
あ、そうそう…」
「なによ」
「先ほどから見てましたけどだいぶ汗かいてるみたいですね。体を冷やすといけませんし衛生的にもよくないでしょうから着替えましょうか」
「えー別にいいよ」
「よくありません、早く治したいんでしょう?それに、あなた制服でしょう、シワが付いたらどうするんですか」
「お母さんみたいな事言わないでよ。だいたい!まだ体しんどいから着替えなんてできないもんっ」
「ハァ〜、ほんっとうに手がかかりますね。では私が手伝います」
「はぁ!?」
鬼灯のいきなりの提案にボッと顔を赤くする。
まいがアワアワしている間に鬼灯はベッドの上に上がってまいと向かい合うようにして座る。
「ちょ、ちょっと待って!!恥ずかしいからっ」
「こんなところで恥らってる場合ですか。はい、両手を挙げて」
じたばたと足掻くまいをよそ目に鬼灯は器用に制服のセーターを脱がせた。
「まい暴れない!」
「いーやーだぁー!」
逃げ出したいのは山々だがまだ熱の下がりきっていないまいが鬼灯から逃れられる可能性は奇跡でもない限り0だ。
そうこうしている間に鬼灯はワイシャツのボタンに手をかける
「〜!!わかったから!もう後は自分でやるってば」
「気にしないで結構です。私が脱がせたいだけですから」
プチプチとテンポよくボタンがはずされスカートにキャミソールというなんともあられの無い格好になる。
「それも脱いだら私の現世視察用のTシャツがあるのでそれでも着ててください。」
と目の前に黒いTシャツが差し出される。
この先は自分で脱げと、鬼灯の視線を感じるまま己で脱げと…
羞恥心やらなんやらでまいはもう泣き出しそうな顔になった。
それを見ると鬼灯もさすがに不憫だと感じたのかまいからくるりと背を向けた。
しばらく衣擦れの音がして着替え終わったようなので鬼灯はまた体を戻す
「うぅ〜恥ずかしすぎる…もう、いっそ殺せー!」
「もう死んでますよ。やはり少し大きすぎましたね」
鬼灯の言葉通り彼の服はまいには大きすぎたようでダボダボでまいのお尻まですっぽり隠れてしまう。
まいにとっては命拾いだったが。
それでも際どい丈ではあるのでまいは気が気ではなかった。
鬼灯は鬼灯で物珍しいといったような視線でしげしげとまいを見る
「なによ、あんまりジロジロ見ないでよ」
「女性が自分の服を着ているのはなかなかいい物ですね。一気に所有物感が出ます」
「ばっ…バカじゃないの!この…ど変態!!」
「口だけは元気ですね、病人は大人しく寝ててください」
そういって鬼灯はまいをゆっくりと布団に押し倒す。
2人とも視線を合わせたまま顔を近づけていく…、が
「さすがに病人にするのは気がひけますね、今日はお預けにしておきましょう。」
といってまいのおでこにやさしくキスを落とした。
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