何気ない

 どこまでもつづくような草原、吹く風が青々とした波を作る。
草原の中央に聳える大木の木陰にいる二人。
ぐいーっと大きく背筋を伸ばし、草原を眺めた。傍には木にもたれながら今にも寝てしまいそうでウトウトしているアイク。
まさに、「平和」と言える時間が流れていた。
「…ねぇ…アイク」
呟くように問ながら彼の隣に座った。
「なんだ」
「最近変わった夢を見るの。」
「夢か。」
「今までの時間が、あなたが、夢だったらって。夢で私は草原にいて、なぜかあなたがいなくて、でも夢の私はまるで自然にあなたに出会う前みたいな生活をずっと一人で続けて行くの。あなたとの時間が、無かったかのように……。」
そよそよと草原の風にその深緑色の髪を揺らしながら遠くを見つめるような彼女の目はどこか悲しみが込められていた。
「あはは、なんだか変なこと言っちゃった。ごめんなさい。疲れてるのかなぁ…。」
寂しさ隠れの微笑み。表面は笑っていても、そんなことすぐにわかった。
「リン。」
なに?と振り向いた彼女の頬をアイクは無言でむにっと両手でつまんだ。
「ふぇっ!?」
突然のことに驚いてとっさに変な声がでてしまった。
「痛いか?」「あ、あたり前よっ!」
なんで今そんなことするのよと照れ隠しにアイクの手を振り払うリンの反応にアイクは一息入れて言った。

「良かった。じゃあ、夢ではないんだな。」
これは不意打ちだった。
目を合わせるのさえ恥ずかしくなるくらいにいつもの彼からは考えつかないような爽やかな笑み。
こんなことをされてしまっては流石の彼女も顔を赤くして黙り込んでしまった。

「えーっと…なんか、らしくなかったな…。」
「痛いじゃない…ばか…。」
そういう彼女の顔は嬉しそうだった。








──こんな何気ない時が、ずっとつづきますように








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