ふたりぼっち

とても長いバンダナをつけた人(名はたしかスネークだったか)に教えてもらった花畑にリンは来ていた。
ここはたしかに彼が言った通り綺麗なところだ。
サカのように辺り一面の草原とは違うのだが、代わりにサカでは見たこともないような花が多く咲いていた。
リンは草原育ちのためか草や花の匂いが好きだった。というよりはもう生活の一部と化していたのだ。
この世界にもその匂いを感じられる場所があるのは嬉しかった。
ここはお気に入りの場所になるかもしれない、そう思っていたときだった。

「・・あら、誰かしら?」

花畑の中に人影が見えた。
海のような深い青を湛えた髪と、対照的に紅蓮を纏ったかのようなマントを羽織っているのは彼しかいない。

「アイク・・・?」
「ん・・・あぁ、たしか・・・」
「リンよ。ここでなにをしていたの?」
リンがそう尋ねるとアイクはほんの少しだけ目を逸らした。

「・・・両親のことを、思い出して、な」
そう聞いた瞬間リンははっとした。
他の人からアイクは過去に両親を亡くしていると聞いていたのだ。

「そう・・・」
アイクにはミストという名の妹がいると聞いた。リンにだって仲間はいるが、それでも血の繋がった者が傍にいるというのはなによりも嬉しいことだ。
自分も遠いリキアの地に祖父がいると知ったときには涙が出るほど嬉しかった。
だが今はその祖父も死んでもういない。
アイクとリンとの間で決定的に違うところはそこなのだ。
その溝は決して埋めることはできない。
いろいろ考え事をしていていつの間にか俯いてしまっていると、不意に頭になにかが置かれた。
何事かと思い少し顔を上げるとそれはアイクの手だということが腕の伸び方でわかった。

「・・・お前には、俺がいる」
手を置かれたことで動揺していると、普段の彼のぶっきらぼうな口調からは考えられない、ひどく優しい声音で言葉をかけられた。
リンにはアイクが何を言っているのかわからなかった。

「アイク・・・?何を言って・・・」
「たしかに俺とお前とでは苦しみの重さが違う。俺にはまだ妹がいるからな。だが俺は少しだけならお前の気持ちがわかる。少しでもお前の苦しみを和らげることができるのなら、俺はお前の傍にいる」
なぜアイクが自分の過去のことを知っているのかはどうでもよかった。
たしかにアイクは血縁者ではなくその意味で自分の苦しみを気持ちを理解してくれようとしてくれている。

「・・・私、駄目ね。あなただって悲しいはずなのに、慰められてる」
「気にするな。俺が好きでやってるだけだからな」
それでも嬉しかった。
今までほとんど会話もしたことがないのにここまで親身になってくれたことに涙が出そうになったのだ。
リンはアイクの肩に寄りかかった。
気を抜けば今にも泣きそうで、そんな顔を見られたくはなかった。
なにより今は人の温もりがほしかった。

「・・・ごめんなさい、少しだけ、このままでいさせて・・・」


アイクは静かにリンの頭を撫でた。







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