第2話:その背を追って




  ――レオン。それが金髪の男の名だった。
 歳は三倍も違っていた。それ以外は、何者なのか、教えてはくれなかった。それでも、アレンはいいと思った。
 彼の強さに惹かれた。彼の存在に惹かれた。彼のようになりたいと思った。そして、彼は自分のことを「化物」ではなく、「アレン」として接してくれる。それで十分だった。

「ここが、俺の隠れ家みてぇな場所だな」
 街から離れて森を歩き続け、しばらくした所にそれはあった。
 簡素な造りではあるものの、丁寧な仕事による小さな家だった。小屋と言えるような大きさかも知れないが、丁寧に作り込まれており、そのように言うには少々気が引ける。
 そっと来た道に視線を向ける。道というより獣道に近い。隣の町へ行くにもきちんとした道があるのだから、この辺りを通る人間など殆どいないのだろう。
 辺り一帯に二人以外の人気はなく、とても静かな空気が流れている。
「俺ん家はまぁ一応別にあるが、魔法の修行にはここがいいだろ」
 魔法は下手をすると人に危害を与えかねない。攻撃魔法などは特にそうだ。上手くコントロール出来なければ当然ではあるが、唐突に人が飛び出てきたりなどしても危ない。
 だが、ここは周囲には滅多に人が来ることもなく、森の中にあるとはいえ家の周囲にはそれなりの広さがある。確かに、その練習にはとても良いと言えるだろう。アレンは小さく頷いた。
「こっちが入口だ」
 扉を開けて、中に案内される。そこは思いの外、片付いていた。
 まず視界に入って来たのはテーブルと椅子、棚。周囲を見渡せば、きちんと調理台などもある。生活は出来るようになっている。
 部屋は一つだけではなく、他にもいくつかの部屋があるようだ。そちらにはベッドなどがあるのだろう。
「お前の部屋はどこにするかなー。まぁいいや、とりあえず案内するぜ」
 促されるままに、レオンの後に着いていき、アレンは家の中を見て回る。
 これからここで生活していくのであれば、きちんと知っておくにこしたことはないだろう。

「お前、家は?」
 家の中を大雑把に案内し終わったらしく、レオンは立ち止まるとこちらを振り返った。
 背を向けていた彼が振り返ったことにより、視線が合う。それに僅かにアレンは身構える。
 アレンへ向けられる視線は、いつだって嫌悪や侮蔑を含んだものだった。だから、誰かと視線を合わすことがなくなった。
 しかし、レオンの瞳にはそのようなものは浮かんでいない。ただアレンの答えを静かに待ってくれているだけだ。
(レオンは大丈夫なんだから。怖がることなんてないんだ)
 緊張を和らげるようにそっと息を吐き出すと、アレンはゆっくりと口を開いた。
「遠い。学園の寮に住んでた」
「親は?」
「お母さんがいるけど、僕がいない方が、きっと……」
 言いながら、自然と語尾が弱くなっていく。
 母は優しい人だった。アレンのことを愛し、大切にしていてくれたと思う。ただ一人、彼女だけがアレンの味方だった。アレンにとって、自分を「化物」と見ずにいてくれる人間など、母親ただ一人だった。
 父親にさえ否定され、そしてその父親は「化物の父親」ということに耐えられず、自殺した。それでも尚、ただ一人母だけは、アレンを責めることなく、アレンの味方で在り続けた。



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