『アレン、お前は何も悪いと思わなくていいのよ。もしお前が自分で悪いのだと思うなら、それは全部母さんが背負ってあげるから』
『大丈夫よ、アレンが諦めなかったら、きっといつかみんなと仲良くなれるわ』
温かな声で、いつもアレンを慰めてくれた。アレンが今まだこの世で生きていられるのは、彼女のお陰以外の何物でのないと思う。彼女とて、辛かったろうに。
彼女はアレンを産んだことにより、明らかに周囲から白い目で見られていた。アレンの母親である為に、周囲から疎まれていた。それでも、彼女は何も言わなかった。変わらず、笑い続けてくれた。アレンの全てを背負おうとしてくれていた。
アレンは、そんな母が好きだった。アレン以外の全てを敵に回しても自分の唯一の味方になってくれようとする、その気持ちだけで充分だった。何もアレンの所為で、彼女まで苦しむ必要はない。自分の所為で彼女が苦しむのを見たくなかった。
アレンが学園に入り、寮に入ったのは、周囲から母を守るためでもあった。自分がいなければ、もう少し彼女に対する風当たりも弱くなるだろう、と。
それをどう思ったのか、レオンは暫く黙っていた。その表情から、彼が何を考えているかアレンに読み取ることは出来ない。
「本当に、強くなりたいのか?」
それは、アレンの意志を確認するかのような声音だった。
その問いに、アレンは思う。自分のしようとしていることで、自分は余計に「化物」と呼ばれるような結果になるかも知れない。それを考えると身が竦む。疎まれるだけという状況はとても怖い。
――だが、もう逃げるだけの自分は嫌だと思う。
逃げて、縮こまって生きて、その先には何もなかった。何も得られなかった。ただ「化物」と蔑まれ、恐れられ続けただけだった。何も状況など変わらない。
レオンは言った。強さを求めるよりも、自分の弱さを正当化する方が簡単なのだと。それは、自分にも言えることだと思った。
「化物」と呼ばれることが怖くて、ただ人を避け、ただ力を抑えて生きてきた。化物と呼ばれているから仕方がない、と。それでも、他人のことを弱いだとか愚かだと見下して。だが、それは、弱い自分の正当化に他ならなかったとアレンは思う。
どうすればいいのかは分からない。それでも、この男を追っていれば自分は変われるのではないか。そんな気がする。
「なりたい」
沈黙の後、ゆっくりと口にした言葉は、思いの他、強かった。主張するように、静かに広がっていく。
初めて、自分に宿った意志だとアレンは思う。流され、他人を見下し、ただ堪えるだけだった人生の中で、初めての。
それに、レオンが不敵に笑うのが分かった。
「じゃ、俺が教えてやるよ」
レオンは、アレンを見て、アレンの言葉を聞いて、アレンに笑いかけてくれた。
それが、アレンには涙が出そうなくらいに嬉しかった。自分の存在を否定せず、肯定してもらえたような気がした。
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