第3話:それは小さな、それでも確かな変化




 窓から差し込む朝日が、朝の爽やかさをダイニングルームに染み渡らせる。
 食器が擦れる金属音を小さく響かせながら、アレンはテーブルを挟んで前に座る人物をそっと盗み見た。
 作りたてのスープを口に運ぶレオンは、アレンに気付くと小さな笑みを浮かべる。
 この数日間で、当たり前になった光景。
 当たり前の、それでも温かな朝食の風景。初めはレオンが饒舌に話し、アレンが相槌を打つ形だったが、アレンから話すことも少しずつ増えてきた。
 他人と共にする食事は、初めは困惑したが、今では少しだけくすぐったくて心地良かった。

「ああ、そうだ!」
 アレンから笑みが溢れ落ちようとしたその時、唐突に、思い出したかのようにレオンが声を上げた。
「俺、今日はいかなきゃなんねぇ所があんだ。だから、悪いがお前には付き合えない」
「え?」
 きょとんとして、アレンはレオンを見上げる。
 つまり、今日の修行は中止ということだろうか。ぼんやりと頭の中でその意味を考えるアレンに、答えるようにレオンは言葉を続ける。
「その代わり、俺の信用してるヤツが、お前を見ててくれる」
「師匠の、信頼してる人……?」
 その言葉を、アレンは不安げな表情で、反芻した。
 レオンに用事があって、アレンの修業に付き合えない。それは仕方がない。大人なのだ、アレンと違って仕事があって当然だし、毎日一緒にいることは出来ないだろう。
 しかし、問題はレオン以外の人間がここに来るということだ。アレンは、その言葉に身構えた。
(だったら、別に一人でいいのに)
 レオン以外は誰もいらない。他の代わりの人間なんて欲しくない。レオン以外に教えを乞おうとは思わないし、面倒をみてもらう気などない。
 ―― 一人で良かった。否、一人が良かった。
 誰かと関わりたくない。自分を受け入れてくれる人など、レオンと母くらいのものだということが分かっているから。
 レオンが信用していようがいまいが、それは変わりない。どうせまた侮蔑されるのだ。みんな、そうに決まっている。
「あの、ぼ、僕!」
 だから、一人でいい、そう言葉にしようとして……しかし、最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。
「レオン、いる?」
 扉を叩く音と共に響き渡った声に、遮られたからだ。
 流氷が響かせる音のように涼やかで、良く通るそれに、アレンは扉を振り返る。
「お、おう。お前か! 入って来いよ」
 声だけで分かるほど親しい間柄なのだろう。レオンはその人物が誰か、瞬時に判断できたようだ。
 扉の外にいるその人に対してレオンは声を返し、扉をあけるためにそちらへ向かう。
 アレンは怯えたように肩を揺らして身構えるものの、それに気付かないレオンはそのまま扉を開けた。



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