そこにいたのは、凛とした女性だった。
 纏う黒衣は、女性らしくないまるで男性が着るような飾り気のないものだったが、それでも体にぴったりとしたそれは緩やかな女性らしいラインを描いていた。
 頭の上で一つに結った長い黒髪。うねり一つ見当たらない真っ直ぐなそれは、彼女の心を表しているような気がした。
 しかし、何よりも印象的だったのは、切れ長な瞳だ。それはまるで氷をくり抜いたかのような冷たさを感じさせた。
 レオンとは違う、正反対とも言えるような女性だった。レオンが「動」であれば、女性は「静」だった。レオンが炎なら、女性は氷だった。
「レオン。貴方がすぐに何処かに行くのはいつものことだけど、今回はこの子の相手をしていたの」
 凛とした強さを放つ、涼やかな声。それが、空気を震わせる。
 しかし、涼やかというよりは、寧ろ冷え冷えとした硬質な声だった。まるでナイフのような鋭さをもっていた。
 レオンのような派手さはない。人目を引くようなものは持っていない。それなのに、その鋭いまでの強さはアレンを突き刺した。
「ああ、わりぃ。お前にゃ、いつも苦労掛けてるな」
 しかし、突き刺すような冷たい声にも、睨みつけてくる切れ長な瞳にも、レオンは動じない。
 寧ろ、声を上げ、豪快に笑う。その様子は、とても愉快で楽しげだった。それは、二人の親しさを表しているような気がした。
「分かっているのなら、もう少し自重してくれる?」
「お前くらいのもんだよ、俺にそうやって言うのは」
「よろしく頼むな」
「……まぁ、いいわ。私も貴方がいないなら、暇だしね」
 アレンが身構えている間もそれに気付いているのかいないのか、二人は言葉を交わしていたが、溜息を一つ零し折れたのはクレアだった。諦めるような声音で会話を終わらせる。
 そこで、クレアが初めてアレンへ視線を移した。
 向けられた瞳は、無感動な、何も感情を宿していないような瞳だった。それでも、刃物のように鋭い。その黒い瞳に射抜かれる、そんな錯覚すらアレンは感じた。
「私は、クレアよ」
 簡潔過ぎる、愛想の欠片もないそれは、アレンに向けられた言葉だった。
 一瞬、その冷たさに身が竦んだ。流氷を当てられたような、そんな冷たさを彼女は放っていた。
 ただ、怖かった。身がすくんだ。
「よ、よろしく、お願いします」
 アレンには、そう返すのが精いっぱいだった。
 ただその鋭利さが怖くて、それから逃げるかのように視線を逸らすことしか出来なかった。



- 17/28-

|

栞を挟む
目次/Top



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -