しあわせの方程式 | ナノ

 六月の花嫁





「唯、はい」
 そう言って、友人の理沙から渡された封筒。
 結構な厚みと重さがある。手紙ではなさそうだ。
 そっと開くと、出てきたのは華やかな写真。
「あ、あの写真持って来てくれたんだ!」
 写真の中の純白のドレスに、私は声を上げる。
 理沙のお姉さんが、つい先日に結婚式をした。その写真を見たい、と私は言ったんだ。
 こんなに早く持ってきてもらえるとは、思っていなかった。ドキドキする。
「見てもいい?」
 そう聞いてはいても、理沙が頷くよりも先に、私は写真を見出した。
 せっかちな私を、理沙が笑う声が小さく聞こえたけど、気にしない。楽しみにしていたんだもん。





 ウェディングドレスを纏った理沙のお姉さんは、とても綺麗だった。
 実際に会ったこともあったけれど、全然違う。一瞬、お世辞なんかじゃなくて、本当にモデルさんかと思った。
 まるで、幸せを体現しているかのように、きらきら眩しかった。
 きらきら、きらきら。写真から溢れて来そうなくらいの幸せが見えるような気がした。

「いいなぁ」
 気付けば、思うよりも先に、口から零れ落ちていた。
「何が? 結婚?」
「今、口に出してた?」
 理沙の声に、はたと我に返る。
 自分でも唐突過ぎて、自分が口に出したか出していないか、そんなことすら曖昧だった。
「空と結婚したいの?」
(結婚? 空と?)
 問われて、初めて自分のこととして考える。
 空と結婚したくない訳ではない。でも、かと言って、したいのかと聞かれたら、自分で断言は出来ない。
 ただ、当たり前の未来として、分かりきった未来としてあるんだ。空との結婚は。だから、したいかしたくないかという話ではないんだ。

「んー。なんか幸せそうだなぁって、眩しいの」
 ほんの少し、考えを巡らせて、口を開く。
 私は、結婚したいとかあまり思ったことがなかったし、良いイメージがなかったから、尚更そう思うのかも知れない。
 一般的に結婚を一つの幸せとして考えるけれど、その幸せがずっと続くかといったらそうとは限らないし、そもそも結婚したからといって幸せになれるとも限らない。
 結婚は人生の墓場だ、って誰かが言っていた。そこまでは思わないけれど、自ら檻の中に入るようなものだと思う。
 ……今だって、そう。多少の変化はあっても、根本的にはあまり変わらない。
 空が結婚したいと言うから、結婚するつもりなだけ。私としては、恋人のままでもあまり変わらないと思っている。外的な、法律という拘束が加わるだけで。
(ずっと一緒にいられるのは、幸せかも知れないけどね)
 結婚することに、私はあまり意味があると思っていなかった。私の中では、さほど重要なことではない。
 純粋に愛を誓いたいだけなら、式も法律も介さずに誓えばいいんだと思う。婚姻届けなんて、届け出であって、ただの紙切れ。
 お互いがお互いを大切にして、永遠を誓い合っていればそれでいいじゃないかと思う。何も、結婚という形を、そして法律を介さずとも。どうして、そこにそれほどの意味を持たすのか、私には良く分からない。
 なんの為に、人は結婚などするの? 恋人とどう違うの? 法律で、縛りつけたいの? それにどんな意味があるの?
 問いは尽きない。考えれば考えるだけ、後から後からと出てくる。
 止めどない問いを遮断するかのように、ほんの刹那、瞳を閉じた。
(ああ、だけど)
 意味があるのかは分からない。
 それでも、その一瞬が強い輝きを持っているのは確か。
 偽りのない、誓いの瞬間。幸せに満たされている瞬間。それが、結婚式にはあるのだろう。

 新郎と並んだお姉さんの写真を、そっと見る。
 浮かべられた微笑は、花がほころぶかのような、ただただ幸せそうなものだった。
(……結婚式って、一番、女の子が輝いていて、幸せな瞬間なのかも知れない)
 私も、小さく笑った。写真の中の、理沙のお姉さんが頷いてくれたような気がした。







END


2010.10.3


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