■5
「なんだ?何か買うのか?」
パークが開園して真っ先にすることと言ったら、
「帽子!買うんです!」
お店に入って、今日の帽子を買うことだ。
「そういや前、そんなこと言ってたな…。またあの緑の買うのか?」
どれにしよう、どれがいいかな、ってパーク内に入ってすでにテンション上がってる私は、リヴァイさんの言葉なんて聞こえてなかった。
「リヴァイさん、リヴァイさん!」
「あ?」
「こっちとこっち、どっちがいいですか?」
これはどうだろう、と、ミッキーとドナルドの帽子を差し出しながら聞いた。
「…そうだな、お前にならこっちの方がいいんじゃないか?」
「ドナルド!私もそう思いますっ!被ってみてください!」
「……あ゛?」
リヴァイさんはミッキーの帽子よりドナルドの帽子が良いと言った。
…私もリヴァイさんにはミッキーよりもドナルドの方が似合うんじゃないかと思っていたから、そのままドナルドの帽子をリヴァイさんに手渡し、自分用にデイジーの帽子を被ってみた。
「私、デイジーの帽子はなかったんです!」
「…」
「似合うかな…。」
「ちょっと待て。」
鏡を見ながら話す私に、リヴァイさんが声をかけてきた。
「俺も被るのか?」
「はい!リヴァイさんがドナルドで、私がデイジーですっ!」
「…」
「あ!チケット買ってもらったんで、これは私が買います!」
「いや、そういうことじゃなく、」
「それとも違うのが良いですか?でもリトル・グリーンメンは新作出てなくて…。この帽子可愛いと思うけど…。あ、それともプーさんとかの方がいいですか?うーん、でもリヴァイさんはあんまりプーさん、て感じじゃ、」
「…これでいい。」
「そうですか!?じゃあ、ドナルドとデイジーの帽子買ってくるから待っててください!」
その言葉を言い終わると同時に、リヴァイさんの手からドナルドの帽子を奪い取り、レジへと向かった。
「(アイツほんとに買いに行ったが、そもそも被らないという選択肢はねぇのか…?どう見ても俺にアレは似合わねぇだろう…)」
「お待たせしましたっ!」
日曜日なだけあって、開園直後と言ってもすでにお店の中も人がいっぱいだった。
そんな中、なんとか帽子を2つ、購入し、リヴァイさんにドナルドの帽子を差し出した。
「…………」
「えぇー、っと、鏡鏡…、似合いますか?」
近くにあった鏡を覗きながら、デイジーの帽子を被ってリヴァイさんを振り返った。
「あぁ、お前はな。」
「ありがとうございます!リヴァイさんも被ってください!」
「………」
「ほら、早く!…可愛いっ!!」
「………」
「じゃあ帽子被ったら行きますよ!!」
ドナルドの帽子を被ったリヴァイさんの手を引いて、パーク内を駆け出した。
「(まさかコイツのこのテンション、1日続くのか…?)」
リヴァイさんがそんなこと思ってるなんて知る由もなく、サクサクと行動に移る。
聞いたところによると、学生の頃、リコちゃんのお兄さん含む何人かで1度来たことがあるだけで、あとは全くないようで。
なら効率よく楽しんでもらわなきゃと、ある種の使命感に燃えていた。
「なんだコレ?」
「これはファストパス、って言ってこの時間に来るとあまり並ばずにアトラクションを楽しめるんです。」
「へー、………お前さっきからスマホ弄って何してる?」
「これですか?公式アプリを使って、待ち時間を見てるんです。効率よく回るためにも待ち時間も計算に入れないと…、あ!今ならまだスプラッシュマウンテン空いてますよ!!こっちです!!」
「(…今までを振り返って、コイツがこんな張り切ってるところ見たことねぇんだが、それはそれでなんか腑に落ちねぇ…)」
そんなことリヴァイさんが思っているなんて知るはずもない私は、リヴァイさんの手を引いてスプラッシュマウンテンに駆け出した。
「…30分『も』並ぶのか?」
「30分『しか』ですっ!!普通なら2時間待ちですっ!!」
「…………」
「あ!お腹すいたらすぐ言ってくださいね!これだけ人が多いと、お店に入るよりも食べ歩きが出来るやつで小腹を満たしつつ、がいいんで。お店に入って食べるのもいいんですが、今日は食よりアトラクションが優先ですからっ…!!」
「(このテンションと体力最後まで保つのか?と、言うか、コイツにこんな行動力があったことがまず驚きなんだが…。これは壊れる前兆か?それとも既にネジ飛んだのか?)」
「はい、ではこちらの方、お足元に気をつけてお乗りください!」
いよいよ、私たちの番!て時。
「ドキドキしますね!」
「俺はコレよりもお前の言動に『ドキドキ』してるがな。」
「え?」
「それでは、いってらっしゃーい!!」
お姉さんの声と共に、ガタン、という音と共に、リヴァイさんとの初ディズニーでの初アトラクションが動き出した。
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bkm