2000年後もラブソングを


≫Clap ≫Top

Devote my life to you+++


1


「温泉?」
「そう!ご家族でどうぞ、って!あなたも行かない?」


ある日の夕食の席で、ママが徐に口を開いた。
パパが会社の人から温泉地への招待券を貰ったそうだ。
その数4枚。


「でも私が行ったら1枚余ってもったいないよ?」
「あら、いるじゃない。私たちの旅行についてきてくれそうな人が!」


ママはそう言いながら、うふふ、と明らかに何かを企んでいそうな顔で笑った。
……………この顔から察するに、私の家族旅行についてきてくれそうでかつママが思い浮かべてる人なんて、1人しか、いない…(ちなみに現在パパはまだ帰宅していない)


「…いやぁ、さすがにそれは、」
「あら!聞いてみないとわからないでしょ!」
「でも、」
「日頃一生懸命働いてるのよ?温泉でも行って疲れを取ってもらったらいいじゃない。」


ほら連絡して、と、ママは言う。
ママの言うことは最もだ。
すごく仕事が出来る人らしいから(モブリットさん情報)日頃の疲れを、それこそ温泉なんかに行って取ってもらいたい気持ちはすごくある。
…あるんだけど…。


「でも誘ったらパパが、」
「そんなの誘ったもの勝ちでしょ!」


ほら早く!と言うママ。
…うちのママって、こんなに楽天的な人だったっけ?なんて思いながら、その勢いに負けて、ママの言う通り、スマホ画面をタップした。


「は?温泉?」


Lineにメッセージを残す、でも良かったけど、文字で説明、が、なかなか難しいと思い電話をすることにした。
でもあまり話すことが得意じゃない私の説明では、やっぱり、とでも言うのか…。
リヴァイさんは声を裏返しながら聞き返してきた。


「はい、実はママが、」


どうせ私なんかが取り繕っても、リヴァイさんには丸分かりだろうと思い、さっき起こった出来事をそのまま告げた。


「なるほどな。」
「だ、だめなら、いいんですが、」
「…いつ行く予定だ?」
「え?あ、あぁ…、2週間後の、」
「わかった。」
「…わ、かった、って?」
「有給取るから俺も頭数に入れててくれ。」
「え、」


仮にママがリヴァイさんを誘えと言って私がその言葉通り誘ったとしても、まさか当の本人のリヴァイさんが承諾するとは思いもしなかったわけで…。


「く、来るんですか?」
「なんだ、行かない方がいいのか?」
「え?い、いや、そう、いう、わけじゃ、」


だって温泉と言うことは、男湯と女湯に別れるわけで、リヴァイさんが男湯に行く、と言うことは、うちの家族で男湯に入る人なんて1人しかいないわけで…。


「ほ、本当にいいんですか?」
「お前、俺が行かない方がいいなら誘わなければ良かっただろう。」
「や、本当にそういうわけじゃ…。」


それってリヴァイさんとパパが一緒にお風呂に入るってことで…。
あの2人、大丈夫なんだろうか、って…。
一瞬で脳裏を駆け巡った。


「リヴァイさん、来るって?」


電話を切った後、ママがうっきうき、と言う感じで私に聞いてきた。


「う、うん…。」
「良かった!じゃあ直前まではパパに内緒にしておきましょう!」
「え!?」
「あら、だって言ったらパパ、行かなそうじゃない。」


…………じゃあなんでパパが貰ってきた「旅行券」にリヴァイさんを誘えなんて言うの……。
いや、これはもう押しに負けて誘ってしまった私が悪いのかもしれない…。
うーん…、と考えていたのは私1人だけのようで、この日のうちにママの采配の元、ホテルの周辺施設の下調べや交通手段等々、調べさせられてしまっていた…。


「久しぶりの家族旅行、楽しみだなぁ!」


その数日後、パパがお酒を飲みながら、にっこにこの笑顔で口にした言葉に、物凄く、申し訳なさが込み上げて来た私は、少し感性がおかしいんだろうか…。
なんて思っていると、ママから「言うな言うな」とでも言うかのような圧力を感じて、そのまま黙っていることにした…。


「…………なんで君がいるのかな?」
「お義母さんとお嬢さんから誘われたので。」


本当に当日までパパに一っ言もリヴァイさんが参加することを言わなかったママ(に、強要された私)
そして出発直前、我が家にやってきたリヴァイさんに、パパの顔が引きつったのを見逃さなかった。


「俺が運転しますよ。」


今日は車で行こう、って言う話になっていて。
免許を持っているリヴァイさんが運転してくれることになって(パパもママも持ってるけど)
リヴァイさんが運転なら、と、私は助手席に乗って、パパとママが後部に乗った。


「フィーナ、」
「あ、はい。……飴かガム食べます?」
「じゃあガムくれ。」
「はい。…あーん、」
「あー…」


リヴァイさんの運転で、何度かドライブに行った経験のある私は、運転中のリヴァイさんに飲み物を渡したり、飴とかガムを渡す(と言うより口の中に入れる)のは当たり前なことになっていて。
だからこの時も何の躊躇いもなくリヴァイさんの口の中にガムを放り込んだ。
………直後、


「お前っ!!」
「え!?」
「パパにはそんなこと1度もしたことないじゃないかっ!!!!」


後部シートから身を乗り出して、パパが叫んだ…。


「………だ、って、」
「だってなんだっ!!?」
「パパ、が、運転してる時、私隣に座ったことない、じゃん?」


パパの運転で出かける、と言うのは大体がお休みの日に家族でお出かけ、って時で。
必然的にママがいるわけで。
ということは助手席はママに譲るものが当然なわけで。


「……………」


思ったことを口にしたら、パパはそれはそれはすごく、ものすごーく、まるでリヴァイさんのように眉間にくっきりとシワを作った。


「………」


それに対してどう言ってみようもない私はそのまま前を向いた。




「(ほんと飽きさせないおもしれぇオヤジだな…)」





無表情で運転するリヴァイさんがまさかそんなこと思っているなんて知る由もなく、車は温泉地へと走り続けた。

.

prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -