■3
シャーッ、と、水音が響く。
リヴァイさんの黒く艶やかな髪が濡れ滴る。
「熱くないですか?」
「大丈夫だ。」
リヴァイさんは体を仰け反らせ、でも、約束通り、目を瞑って髪を洗われていた。
「シャンプー、」
「あ?」
「変えたんですか?」
「………」
前に泊まった時、このシャンプーじゃなかったよなぁ、なんて思いながら、リヴァイさんの髪の毛を泡で包むべく手を動かす。
………でも、なんで今黙るの?なんて思ったら、
「お前が、」
「え?」
リヴァイさんが口を開いた。
「お前が使っても合いそうな奴に変えた。」
「…………」
目を瞑りながら、少し、眉間にシワを作ってリヴァイさんが言った。
そう言われて、手の中の泡の匂いを嗅いでみた。
確かに、この前使った匂いより、こう…中性的な匂い、とでも言うのか…、男の人も、女の人も使えそうな匂いのシャンプーと言うか…。
「……おい、お前何か言ったらどう、だ、」
リヴァイさん、なんだか可愛いところあるよなぁ、って。
そう思ったら思わず、私の方に体を仰け反らせているリヴァイさんの鼻の頭に、ちゅっ、と、唇を落とした。
「………」
「………」
リヴァイさんの後ろに立ち、倒れないように頭を支えながら、リヴァイさんを見下ろす私と、倒れないように、片膝を両手で押さえながら、私を見上げるリヴァイさん。
2人の間にしばらく、沈黙が流れた。
「あ、髪、洗い、ま!?」
早く洗い流さないと、体が冷えてしまう。
そう思って慌てて髪を洗い流そうとした時、ぐるん、と、こちらを見たリヴァイさんが、再び自分の足の上に私を座らせた。
「お前、」
「は、はい?」
「それは誘っている、と、受け止めていいんだよな?」
我ながら、とんでもないことをしたんじゃ、なんて思ってリヴァイさんの顔を見たら、先ほどまで洗っていたシャンプーの泡が、まだたくさん残っていて。
「あ?」
「………」
思わず、リヴァイさんの髪で、子供がお風呂場でするようにソフトクリームを作った。
「………」
「ぷっ、」
自分で作っておいてなんだけど、リヴァイさんの頭の上に、ソフトクリームを乗せたら、なんだかおかしくなってきて思わず笑ってしまった。
「……お前は本当に……」
「え?わっ!?」
「………」
リヴァイさんが言いかけた言葉を聞き返すと、ぶわっ!と顔面にシャワーをかけられた。
「っ、」
「………」
そして何度かポンプをプッシュした後で、私の頭をがしゃがしゃと洗い始めた。
「出来たぞ。」
そう言いながら、鏡を指さしたリヴァイさん。
それにつられて鏡を見ると、
「……なんですか?これ…。」
「サザエだ。」
私の頭もぼわっ、と、泡だらけになっていた。
「…サザエ、って、サザエさんのサザエ?」
「あぁ。」
前にリコちゃんのお兄さんが言っていたことがある。
リヴァイさんは概ねなんでも出来るけど、美術の成績だけは本当に壊滅的に酷い、って。
悪い、じゃなくて、酷い、って…。
「全然違うじゃないですか…。」
「あ?」
「サザエさんはもっとここを、こう、」
「同じじゃねぇか。」
「違いますよ!いいですか、サザエさんて言うのはですね、」
一緒にお風呂に入るなんてどうしよう、なんて思っていたのに、結局2人で頭と言わず全身泡だらけになりながらムキになって泡の芸術品を作り上げていた。
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bkm