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「い、嫌です…!」
「…………」
現在、とてつもないスピードで機嫌が斜めに傾いて着ているリヴァイさんを前に、更に機嫌を斜めにするであろう発言を、俯きながらしていた…。
「別に減るもんじゃねぇだろ。」
「へ、減るとか、減らないとかっ。そ、いう問題じゃなくてですね、」
「『じゃなくて』なんだ?相応の理由があるなら言ってみろ。俺が納得出来る理由ならここはお前に譲ってやる。言え。」
………何言っても、納得なんてする気、ないですよ、ね…?
なんて態度のリヴァイさんを前に、さらに下を向く。
事の発端は、リヴァイさんが会社で、入浴剤をもらってきた、と言うところから始まった。
なんでも最近、部下の人のミスをカバーしたところからハードワークが続き、問題が解決した暁に、そのミスをした人からお礼に、と、入浴剤を貰ったそうだ。
どんなのか、って聞いたら「ミルク」の入浴剤だそうで、私使ったことないなぁ、なんて思いながら、良い匂いなんですか?と聞いたところ、使ってみるか?と言われ、使ってみたい、と答えたら、じゃあ一緒に入るぞ、って言われて…。
「ほ、ほら、リヴァイさんのお家のバスルーム、2人じゃちょっと狭いんじゃ、」
「あ゛?俺んちの風呂が狭ぇだと?」
「…気、のせい、ですよ、ね…」
かれこれ20分は、こういう押し問答を続けている…。
私としては、その入浴剤を貰い家で入る、もしくはリヴァイさんのお家だったとしても1人で入る、と言うものだと思っていたわけだけど、リヴァイさんは何故かすっかり2人で入るものだと思っていたようで…。
でもそれはさすがにちょっと、って思うわけで…。
「別にいいだろ?ただ風呂入るだけじゃねぇか。」
「ただ」お風呂に入るだけと言うなら、そちらが引き下がって頂きたいのですが…。
「ただ」お風呂に入ることがどんなに勇気がいるか、わかってないですよ、ね?
あぁ、でもこういうこと言うと、余計不機嫌になるだろうし…。
どうしようどうしよう。
「バ、」
「あ?」
「バス、タオル、巻いていい、なら…。」
今、私の脳内は猛スピードで過去テレビや映画で見てきた「入浴シーン」と言うものが駆け巡り、これなら!と思い、リヴァイさんに提案してみた。
「は?ふざけんな。風呂の水が汚れる。」
それをバッサリと一瞬で切り落とされた気分だった。
「ラブホで入んじゃねぇんだ、バスタオルなんぞ巻くな。」
その一言に、ピクリ、と、体が動いた。
「ラ、ブ、ホテルなんて、行ったこと、ないです、し、」
「………」
私のこの一言に、リヴァイさんは一瞬、それは「しまった」とでも言うかのように、目を見開いた気がした。
「ラブ、ホテル、は、バスタオル巻いて、いいんです、か?」
「………」
「リ、ヴァイ、さん、は、行ったこと、あるんです、か?」
「………………」
それまで不機嫌そうにしていたリヴァイさんは、一転、気まずそうな顔をし、口を開かなくなった。
「…………」
「…………」
……あぁ、きっと、この人は元カノさんと、ラブホテルに行ったこと、あるんだな、って。
それできっとその人と、お風呂に入ったこと、あるんだな、って。
リヴァイさんの年齢を考えれば当たり前と言えば当たり前なことだと思う。
………だけどそれってなんかなんかなんか…。
その時、
「…………」
徐に、リヴァイさんが入浴剤を片付け始めた。
「は、」
「あ?」
「は、いらない、ん、です、か?」
さっきまで嫌!って言っていたのは、私。
でも……。
元カノさんとしていたことを、私だけ嫌!って言い続けるのも、ちょっと、な、とか…。
別に決して元カノさんと勝負しよう、とか、そういうつもりではなかったんだけど………たぶん。
でも入浴剤を片付け始めたリヴァイさんに、気がついたらそう、声をかけていた。
「………」
リヴァイさんは、どこか困った顔をしながら、
「バスタオルは巻かない。」
「…」
「で、いいなら、入るか?一緒に。」
そう、言ってきた。
……別に、本当にリヴァイさんの元カノさんと張り合おうとか、そういうつもりじゃない。
でも、元カノさんとしていたこと、私はしていない、とか…。
それがすごく嫌だな、って思って、
「………」
リヴァイさんの提案に、こくり、と首を縦に振った。
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bkm