■3
胸糞悪い夢から現実を突きつけられ、ある種冷静になっていた俺は、さすがに「初めて」でソファは悪いような気がして、そのままベッドに連れて行った。
そもそもにして、恋人とは言え他人を自分が寝るベッドに寝かせるなど、絶対にあり得ないことだと思っていたわけだが、それに関してなんら抵抗なく行動に移していた自分に内心驚きを隠せなかった。
「あ、あのっ、」
ベッドに横にさせたら、それまで黙っていたフィーナが赤い顔をしたまま、口を開いた。
「わっ、私、こういうの本当によくわからなくてっ、」
何を言い出すのかと思ったら、ちょっとした自己アピールが始まったようだ。
「リコちゃんとかクラスの子たちは、お昼休みに雑誌のそういう特集ページをきゃーきゃー言いながら見てたりするんですが、私はあえて見てなかった、って言うかっ、」
コイツは興奮するとよく喋る。
「で、でもっ、見てた方が良かったのかなぁ、って今ちょっと後悔してるんですが、」
だがそれは緊張していても同じことらしく、
「だいたい、うちのパパって、仕事で夜遅くて、小さい時もそんなにお風呂一緒に入った記憶もないくらいでっ、」
緊張も度を超すとお喋りになるようだった。
「強いて言うなら、中学の時に行った動物園で象のを見たくらいでっ、」
「………………」
コイツは、至って真剣なんだろう。
それはコイツの性格から十分伝わる。
だが、
「ははっ!」
「え!?」
生まれてこの方、象のソレと比較される日が来ようとは思わなかった俺としては、笑っちゃまずいと思っても、堪えることなど出来なかった。
「あ、あのっ…?」
「あぁ、悪い。」
突然、それもらしくもなく「吹き出した」俺を不安そうに見上げて来たフィーナ。
「安心しろ。さすがに象には負ける。」
「……そ、そうなんですね!で、でもそういうのの、勝ち負けっていうのもよくわからな」
「フィーナ。」
ペラペラといつになくよく喋るフィーナ。
「もういい。」
「…っ…」
「お喋りは終わりだ。」
あのクソみてぇな夢のお陰か、本当に何も知らないと言うフィーナの反応がいちいち俺を喜ばせる。
−だからー!俺はヤリたいんじゃなくて、『恋人』がほしい、って言ってんの!可愛い恋人が!!−
お前も大概馬鹿だな。
「可愛い恋人」がいたらヤリたくなるもんだろうが。
この日、俺の性生活の中でこんなにも時間をかけることなんて2度とねぇだろう、と言うほど時間をかけフィーナの体に触れていった。
「…大丈夫か?」
一通り、事後処理も終わり、フィーナが起き上がって服を着始めた時、声をかけた。
「は、い。思っ、てた、より、痛くなかったんで、」
まだどこか赤い顔で、視線を彷徨わせながらそう言うフィーナ。
「それは俺が『上手い』からだ。」
「……そ、いう、のは、わからないです、」
口を尖らせながら言うフィーナ。
…まぁ確かに、「そういうの」をコイツがわかっていたら、またあの夢のような展開になるよな…。
「じゃあこう言えばわかるか?」
「え?」
「俺が優しくしてやったからだ。」
「………」
服を着始めていたフィーナの隣に腰を下ろし、そう言ってやると、一瞬、驚いた顔をした後、両手で、口元を隠すように覆った。
「あ、りがとう、ござい、ます…?」
赤い顔をして、俺の顔を伺うように見ながらそう言ったフィーナを抱き寄せた。
「ファーランが羨ましがるわけだ。」
「え?お兄さん?」
「お前のように『可愛い恋人』がほしいんだと。」
いつか、アイツにもそういう女が出来ればいいと思う。
…が、今まで散々人を病人扱いしてきた分はやり返してやる。
未だ赤い顔をしているフィーナに口づけながら、そんなことを思っていた。
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bkm