■2
あのクソみてぇな夢を見てから数日後。
「せっかくお休みなのに、すみません…。」
「いや、構わん。」
それはまるで予知夢とでも言うのか、フィーナが「勉強を教えてくれ」と言ってきたので、本当に俺の家で見てやることとなった。
「あぁ、違う。その場合は、」
「…あ、そ、そうなんですね…。」
隣に並んで座わり、わからないところを教えてやる。
テーブルの上で参考書と格闘しているフィーナを盗み見ると、それはまるであの日の夢がフラッシュバックを起こしたような錯覚すらある。
「やっと終わった…!ありがとうございました!」
「あぁ…。」
そもそもにして、コイツ何の躊躇いもなく俺の家にやってきたが、普通「恋人」の家に来たらどうなるかくらい考えるよな?
何も起こらないと思って来たのか?
それとも…。
仮に何か起こっても、なんら支障はない、と思って来たのか?
−私リヴァイさんの前は、1人『しか』経験ないですよ。だって、こういうことって『真剣に想いあった人』と、って、想いません?『誰でもいい』ってわけじゃ、ないじゃないですか−
…クソがっ!
「…え?え!?ち、ちょっ、リヴァイさっ、」
「フィーナ、」
まるであの日の夢の再現とでも言うかのように、一区切りついたところで、フィーナを押し倒した。
「ちょっ、やだっ、」
「………」
首筋、鎖骨に鼻をつけると、今まで香水や化粧の臭いを撒き散らしていた女共とは違う、柔らかい、石鹸の香り。
「リヴァイさん!やめっ、」
「………」
化学薬品のついた肌は舐め上げると舌が痺れる。
でもコイツには、それがない。
「リヴァイさんっ!」
服の中に片手を突っ込んだところで、一際大きな声で名前を呼ばれ、体を少し起こし組み敷いたフィーナを見下ろした。
「…っ…」
泣く、までは、いかずとも、瞳いっぱいに涙を貯めて、その表情から見て取れるのは、驚愕、不安、恐怖。
「………」
俺の体に力なく触れている右手の指先も、よく見りゃ震えているような気すらする。
「………」
それは百を語るよりも雄弁で。
「…あぁ、悪かった…。」
フィーナから体を離して起き上がった。
……何やってんだ?俺…。
あれは俺が一方的に見た夢。
夢は夢でしかない。
それを勝手に現実と混同させて、余裕など全くない。
…なんてザマだ…。
「…なんか飲むか。」
「………」
場の気まずさに耐え切れず、紅茶でも淹れてこようかと立ち上がろうとした。
瞬間、
「!」
クィッ、と、服の裾を弱々しく引っ張られる感覚に、軽く腰を浮かせて状態のまま、その感覚の元を辿った。
「………」
俺の服の裾を引っ張っている手は、先ほどまで俺の体を拒絶するかのように触れていたフィーナの右手で。
手の先をゆっくりと辿ると、
「………」
先ほど俺がはだけさせた胸元を左手で握り締めながら、目を伏せているフィーナがいた。
「………」
「………」
立ち上がろうと浮かせた腰は、そのままフィーナの方を向く。
「………」
「………」
まるで全てがスローモーション。
コイツは何も話さない。
ただ、俺の服の裾を握り締め、俺の顔を直視できずに睫毛を震わせ俯いていた。
「フィーナ。」
名前を呼んだ、その声に、俺の服を掴んでいた力が、強くなったように感じた。
「お前が嫌がることはしない。」
「…」
「だから…、」
我ながら本当に口下手だと思う。
「だから」なんだと言うのか。
だが、その先を飲み込んだ俺に対して、フィーナは自分の胸元を握り締めていたもう片方の手も、俺の服を掴むことで答えた。
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bkm