2000年後もラブソングを


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Devote early summer to you+


3


「………お前、早いな。」
「先生!」


リヴァイさんと一緒に映画を見に行くと約束した日。
前日の夜なかなか眠れないどころかむしろ寝ていないくらい興奮していた私は、約束の時間までいてもたってもいられず、待ち合わせ場所に待ち合わせ時間の30分前に着いていた。
遅れるよりも全然いい、って思っていたら、約束の時間20分前にリヴァイさんがスタバで買った飲み物を片手に現れた。


「先生、も、早い、です、ね。」
「俺はまぁ…、いつもこんなだな。」
「…『いつも』?」
「待ち合わせ時間の15分前には着て、ゆっくり何か飲んでるのが好きだ。」


そう言われてみたら、代理家庭教師をしていてくれた時、いつも私より先に着てコーヒーを飲んでいた。


「そう、なんです、ね。」
「あぁ。」


そうか、なら次の時は、私も早めに着たら一緒にお茶飲めるな、とか。
でも「ゆっくり飲みたい」と思ってるなら、あえてギリギリに着た方がいいのかな、とか。
いやそれよりもまず、脳内でこれが当たり前みたいな流れになっているけど、もうこんなこと2度とないかもしれないんだから、次のこと考えるより今のこと考えなきゃ、とか。
一瞬でぐるぐると考え出していた。


「お前も着たなら、少し早いが行くか。」
「はい!」
「…あぁ、紅茶だったら飲めるんだったな?」
「はい?」
「アイスティだ。」
「…はい?」
「なんだ、いらないのか?」
「え!?い、や、い、ただき、ます…?」


そう言ってリヴァイさんは持っていたスタバのロゴが入っているカップを私に差し出してきた。
………ふ、普通にもらう流れになったけど…。
これ、口つけたもの、なのか、な……?
や、でも全然減ってないから手付かず…?
……そ、そりゃそうだよね、そんな口つけたものをだってそれってつまり…。


「おい。」
「は、はいっ!?」
「…ボケっとしてないで行くぞ。」


渡されたアイスティを思わず凝視していた私に、リヴァイさんが物凄く怪訝そうな顔をしたことを覚えている。
そう言って映画館に向けて歩き始めたリヴァイさんの後を、遅れないようについていった。
…この時、人生で初めて「デート」と言うものを経験したわけで。
しかも手の中にはいきなり間接キス疑惑のあるアイスティがあるわけで…。
すでにキャパ超えな感じが否めない中、おかしなことしないように、…ちょっとでも可愛く見えますように、って思いながら、リヴァイさんの後をついて歩いた。


「チケットブース、こっちですよ?」
「あぁ、予約してあるからこっちでいいんだ。」


並ぶのめんどくせぇだろ、とリヴァイさんは言いながら、スタスタ空いている発券機の方へと行った。
ピピッ、と手馴れたように画面操作をして、あっという間にチケットを2枚出した。


「あ、お、お金、」
「は?…今日はお前の成績があがったから、ってことで来てんだ。お前が払う必要ない。」
「え!?で、でもっ、そういうわけにはっ、」
「…フィーナ。」


リヴァイさんがこの日初めて、私の名前を呼んだ。


「人が出すと言ってるんだ。お前は素直に甘えておけ。」
「…けど、」
「『奢らせてやる』のも時には必要な優しさだ。覚えておけ。」


いい女になりたかったらな、とリヴァイさんはチラッと私を見ながら、付け加えるように言った。
……それはもう、はい、なりたいです。
1つ1つにいちいちドキドキしてしまう、こんな子供の自分じゃなくて、先生の、隣にいてもおかしくないような女の人に、なりたいです。
そんなこと、口に出来るわけがない私は、


「あ、りが、とう、ございます。」


なんとか一言だけ、リヴァイさんに返した。
そこから上映時間までまだ時間があるから、って、売店を覗いていた。


「なんだ、ここにもあんのか…。」
「え?あ、リトル・グリーン・メン!」


ちょっと大きめのその売店には、同じディズニー映画、ってことでなのか、今は上映すらされていないのに、何故かリトル・グリーン・メンのグッズがあった。


「チッ!ここにあるの知ってたらここに来たってのに。」
「え?」


呟くように言ったその言葉に、思わずリヴァイさんの顔を見上げた。


「…お前にやったあのぬいぐるみ、」
「はい?」
「………どこに売ってんのか検討もつかなかったからそこらへんの雑貨屋はしごして恥かいた。」
「え、」
「4件目の店でお前の置き手紙に描かれてたソイツを見せながら店員に聞いたら雑貨屋じゃなくディズニーストアを薦められそこでようやく見つかった奴だ。」


大事にしろよ、とリヴァイさんは言った。


「な、なんで?」
「あ?なんでだと?二十歳過ぎた男が1人で雑貨屋入って店内隅々見て回ってたらおかしな目で見られるだろうが!」


何言ってやがる、と言う表情でリヴァイさんは言ってきた。
…そうかな、男の人が1人で雑貨屋ってなんだか可愛い感じもするけどな、なんて思ったことを覚えてる。


「…先生が、買ったんです、か?」
「他に誰が買うんだ?」
「…そう、です、よ、ね…。」


−どうせ自分の女に買わせたんじゃない?−


ねぇ、リコちゃん。
それ違ったよ。
先生、自分で買いに行ってくれたんだって!
このあいだ、リコちゃんに言われた言葉と、先生がした行動に、自分でも胸がキュッとしていくのがわかった。


「私、リトル・グリーン・メン好きなので、あれ宝物にしますね!」
「…いや、そこまで大事にするような代物じゃないと思うが、」
「そんなことないです!先生から貰った物だから大切にします!」
「…………そうか。」
「はい!」


ドキドキドキドキ、と、高鳴る胸を抑えながら、この日、人生初デートをした。

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bkm

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