■2
偶然リヴァイさんに会った翌日の塾で、
「は?もらった?あのチビに?」
リコちゃんに昨日あった出来事を話していた。
「う、うん。ほら、前に言ったでしょ?代理家庭教師してくれたお礼に行ったら先生寝込んでて、ポカリ買いに行った、って。」
「あぁ、うん。」
「その時のお礼、って。」
じゃーん!とでも言うように、カバンから昨日貰ったぬいぐるみを出した。
ちなみに、この瞬間からリコちゃんの中でリヴァイさんは「ただのチビ」から「ロリコンチビ」に降格したんだと、後から教えてもらった(つまりリコちゃんには餌付けに見えていたらしい…)
「先生、私が置き手紙に使ったリトル・グリーン・メンのメモ帳の絵を見てこれにしたんだって!」
「それをあのチビが?どうせ自分の女に買わせたんじゃない?」
「え?」
「お前考えてもみなって!あーんな人相悪い男が、こんなの売ってる店に1人入って買うか?絶対自分の女に買わせたに違いない!」
「…そう、かな…?」
「そうだって!」
「で、でも、先生が『お礼』って言ってくれたのには違わない、し、」
「あぁ、まぁそうだけどねぇ。」
リコちゃんの言葉を、必死に打ち消そうとしていたけど、思いの外その言葉の威力は大きく、ずっしりとのしかかってきた…。
……リコちゃんの言う通り、先生本人が買ってくれたんじゃ、ないのかも、しれない。
彼女さんが、買ったのかもしれない…。
いや、そもそもにして、先生、彼女、いるのかな?
………いないわけ、ない、と、思う…。
なんて、塾の講義を受けている間中、何故だかドキドキしだした胸を抑えながらそんなことを考えていて、この日の授業は全く身につかなかった。
「あれ?Line着て、る…」
その日の夜、リヴァイさんからもらったぬいぐるみを机の上に置きながら、うーん、と見つめていたら(一応勉強しようと言う気持ちはあった)スマホの着信ランプが点灯しているのに気がついた。
見てみると、
『モンスターズ・インク見たぞ』
リヴァイさんからのメッセージだった。
代理家庭教師期間で、念のため、連絡先は交換していたけど、急遽お兄さんに交替になった、って、時ですら使うこともなかった…。
そしてそのまま使わなかったため、逆にもっと、使えなくなってしまい、連絡先は知ってるけど…、な、状態だったリヴァイさんのLineアドレス。
そこに初めて来たメッセージが、たった一言のこの言葉だった。
びっくりしたのと、嬉しいのと、本当にごちゃまぜになって、それまで座っていたイスから思い切り立ち上がったのを覚えている。
『おもしろかったですか?(^-^)』
こんにちは、とか、お疲れ様です、とか。
挨拶をしようかと思ったけど、リヴァイさんがいきなりメッセージして着たから、こっちも、と、そのまま挨拶なしでメッセージを送信した。
『普通』
『可愛くなかったですか?ドキドキ((〃゚艸゚))ドキドキ』
『あまり』
『え…(´・ω・`)』
今思えば、本当にリヴァイさんらしいメッセージだったと思う。
だけどこの時の私は、リヴァイさんのこの短い返信に本当に顔文字通り「(´・ω・`)」こんな顔になってたんじゃないか、って思う。
どうしよう、初めてのLineのやり取りがこれって…。
このまま終わるって…。
なんて思った私は、勉強そっちのけで、スマホをタップし続けた。
『じゃあ先生はどんな映画が好きなんですか?』
『スプラッタ。脳みそぐちゃぐちゃになる奴や内臓飛び出る奴』
…………………どうしよう、そんなの私見れない………。
なんて思った数秒後、
『と言うのは冗談だ。普通にアクションやサスペンスは好んでよく見る』
とメッセージが入ってきた。
あぁ、なんだ良かった!冗談なんだ!
そんな勢いのまま、
『びっくりするじゃないですか!私、先生と一緒に映画見に行けないって思っちゃっいました( ̄O ̄;)』
と、うっかり感情のまま送信してしまったことを、直後に後悔した。
…………ヤバい!私何送ってるのっ!!!
ど、どどどどどどうしようこれ!!
もう既読ついてる、ってことは見られたんだよねっ!!?
どうしよう、どうしよう!って、パニックになっていた時、
キンコン
再びLine通知が室内に鳴り響いた。
『ファーランから聞いたんだが、お前学期末の成績あがったそうだな?』
そのメッセージを見て、直前の私のメッセージはスルー?あれ?あれれ?ってオロオロとし始めた時、リヴァイさんから続けてメッセージが入った。
『一緒に行くか?映画。成績あがった褒美だ』
そのメッセージを見てしばらく、時間が止まった気がした…。
『本当ですか?』
『あぁ。行くか?』
『行きます!先生は何が見たいですか?』
『アナと雪の女王』
「本当ですか!?私もそれが見たくて」と送ろうとした時、
『お前が見たそうだよな』
そう送られてきた。
それを見て慌てメッセージを消した。
『私は見たいですが、アクションでも、サスペンスでもないです、よ…?』
『だな』
『いいんですか…?』
『成績あがった褒美だからな』
リヴァイさんの今のこのやり取りが、現実に起こってることとは思えなくて、今この画面を消したら消えてしまうんじゃないかって、そんなこと思っていた。
だから、
「…やっぱり夢じゃない…。」
翌朝、目が覚めて1番最初にリヴァイさんとのLine画面を開いた。
そこは昨夜見た通り、塾がお休みの週末、朝10時の回に間に合うように待ち合わせして映画を見に行く約束がされていた。
「…!」
自分でも知らず知らず力が入っていたスマホ画面が、微妙に指でスクロールされプルプルと上下に動いていたのを覚えている。
.
bkm