2000年後もラブソングを


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Devote my life to you


3


「で?なんの用だ?」


受け取った紅茶を少し口に含み、体の内側から温まったところで、リヴァイさんが再び口を開いた。


「あ、あの、」
「あ?」
「き、昨日、の、こと、で…。」
「…………」


リヴァイさんの沈黙が、重くのしかかった気がした……。
スー、と息を吸い込んで、話し始めた(でも決して目を見ることは出来なかったけど…)


「き、昨日、の、指輪、」
「アレはもういい。」
「え?」
「忘れろ。」


寒いから帰るぞ、と言って駅に歩き出したリヴァイさん。
…………ぜんぜん良くない!!


「だ、ダメです!!」
「あ?」
「あれがいいんです!くださいっ!!」
「……は?」


歩き出そうとするリヴァイさんのスーツを思わず握り締めた。


「わ、私っ、昨日、値段にびっくりしちゃって、」
「…」
「意味まで考えてなかった、って、言うか、考えられなかった、って言うか、」
「……」
「で、でも冷静に考えたら、私すっごい大変なことをしてしまったんじゃないか、って思って、」
「………」
「だ、だからっ、あのっ、今更な気もしなくもないですがっ、でもまだ1日しか経ってないのでっ、貰えません、て言葉撤回させてもらおうかと思ってっ、」
「…………」
「そ、そりゃあ、お前何言ってやがるって思うかもしれないけど、でもまさかそんなっ、あ、あんな高価なものを頂けるなんて思っても見なかったわけでっ…!だ、だからリヴァイさんからしてみたらすっごい調子良いこと言いやがって、とか思うかもしれないですが、なんて言うか私はっ、」
「もういい。」
「え?」
「もうわかったから泣くんじゃねぇ、馬鹿が。」


グィ、と、私の目尻に溜まってた涙をリヴァイさんが親指で拭った(でも目に涙が溜まっていただけで辛うじて泣いてなかったと言わせてほしい)
その直後、私の頬に触れながらリヴァイさんが眉間にシワを寄せた。


「………お前、いつからここにいたんだ?」
「え?…いつでしょう?」
「はぁ?…ったく、顔が冷たくなってんじゃねぇか。来るなら来ると連絡して店にでも入ってりゃ、」
「でも、」
「あ?」
「リヴァイさん、スマホ…、電池ないんじゃ…、」
「………………」
「Line送ったけど…、見て、ない、ですよ、ね…?」


リヴァイさんは無表情ながらも、きっと今、あぁそう言えばそうだったな、と脳内で考えを巡らせてるんだと思う。


「…じゃあ、送ってくから、」
「え?」
「あ?」
「指輪は?」
「は?………今あるわけねぇだろ。」
「え、でも、」
「なんだ?」
「…今、ほし、い、です…。」
「…………」


私の言葉に、リヴァイさんはしばらく黙った後、大きな大きなため息を吐いた。


「じゃあ俺のマンションに取りに帰るが、」
「はい。」
「お前時間は?」
「え?あ、大、丈夫、です。」


リヴァイさんは、こう見えて、「女子高生」と言う私にだいぶ、気を使ってくれている。と、思う。
一応門限とでも言うのか、ママからは22時には帰って来い、と言われている私に対して、きっちり守ろうとしてくれる。
たまに時間がオーバーしそうな時は予め、親の了解を取れ、って言ってくるくらいは、そういうことに対して気を使ってくれていた(でもリコちゃんは「自分が厄介事に巻き込まれたくないだけだ」って言い捨てられたけど)
だから今日も、時間を気にしてくれて、大丈夫、とわかった段階で、リヴァイさんは自宅に向かった。


「フィーナ、うちに寄る時間は?」
「え?あ、少し、なら。」
「じゃあ来い。帰る前に少し体温めろ、風邪を引く。」


そう言ってそのままリヴァイさんの自宅にお邪魔することになった。
もう何度も来てるけど…。
いつ来ても…、


「片付いてます、よ、ね…。」


それはもう、隙がないほど、綺麗な空間が広がっていた。


「あ?当然だろ。」


何言ってやがる?とでも言いそうな勢いのまま、リヴァイさんはポットでお湯を沸かし始めた。
お前はそこに座って足温めてろ、と(すごく意外なことに)こたつを指さした。
リヴァイさんち、こたつあるんだ…、って、初めて見た時は驚いたけど、今となってはすっかり見慣れてきた。
お言葉に甘えて、こたつに足を突っ込むと、じんわりと足が温まってきたのがわかった。


「お前ミルクは?」
「あ、だ、大丈夫、です。」


そうか、と言いながら、リヴァイさんは紅茶を出してくれた。


「……………」
「……………」


ズズー、と、リヴァイさんと2人、紅茶を飲む音が響く。
……………さっきあんなこと言っちゃったけど、いざ家まであがったら、ここからどう切り出せばいいのか……。
だって私、よくよく考えてみたらプロポーズに、って差し出された指輪を1度返しておきながらやっぱりあの指輪ください、って、つまり、プロポーズを1度お断りしておきながらやっぱりお受けします、って言ってる、ってことなんじゃ…。
それってすっごい非常識、って言うか、もしかして有り得ないことしてるんじゃ…。
どうしよう、って思っていたその時、


「………」


コトン、と、リヴァイさんがこたつの上に昨夜見た指輪のケースを置いた。


「……………」
「……………」


……目の前に置かれたものの、これはどうすれば…?
えぇーっと、と、指輪のケースを見つめながらぐるぐる考えていたら、


「なんだ、いらないなら捨てるぞ。」
「要ります!」


リヴァイさんが、ヒョイ、と指輪のケースを持ち上げた。
普通だったら冗談だろう、と思うだろうけど、この人の場合、どこまでが冗談なのか未だわからない…。
だからリヴァイさんの言葉に、慌ててリヴァイさんの手から指輪のケースを奪い取った。


「嵌めてみろ。」
「は、はい。」


パカッ、と開けると、昨日と同じ輝きを放つ指輪が目に入ってきた。
少し手に汗を感じながら落とさないように落とさないように、と、気をつけながら左手の薬指に嵌めた。
…………うん、サイズもぴったり!なんて思って自分の指に嵌められた指輪を眺めていたら、


「その指に嵌めるのか?」
「………え!?」


リヴァイさんが冷静にツッコミを入れてきた。


「だ、だめ、です、か…?」
「…………」


あ、あれ?
だってこれ、「プロポーズ用の指輪」じゃないの?
え?じゃあだって嵌める指って左の薬指じゃないの!?
ここまできてもしかして私何かとんでもない勘違いしてるんじゃっ、


「まぁ…、好きな指に嵌めろ。」


1人焦ってる私をよそに、ズズーッ、と、リヴァイさんは再び紅茶を口にした。
リヴァイさんは多くは語らない。
……好きな指に嵌めろ、ってことは、この指でもいい、ってこと。な、はず。だ。たぶん…。
だからこの指に嵌める、し…、嵌める、けど…、嵌めたい、ん、です、が……。


「だが、」
「はい?」
「…その指に嵌めるからにはお前も自覚しろ。」
「ん……」


リヴァイさんはそう言いながら、優しく口づけてきた。


「…あぁ、もう送る時間だな。」
「………」


あぁ、もうそんな時間なんだ、なんて。
心の中で少しだけ、ちぇっ、とか。
そんなこと思っていた。


「フィーナよ。」
「はい?」
「お前、来るか?卒業したらうちに。」


リヴァイさんは多くは語らない。


「はい!」


でも、思ってもいないことは決して言わない人だ。
特別な言葉はなくても、きっとこれが、この人からのプロポーズ。

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bkm

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