■3
リヴァイさんが我が家に挨拶に来てからは、
「おはようございます。」
「あら、おはよう。今日デート?」
「はい。」
「ちょっと待っててね。フィーナー!リヴァイさん来たわよー?」
「…はーい!」
いつも家の前とかで待ち合わせだったのに、うちのチャイムを押して迎えに来るようになったリヴァイさん。
「お義父さんは?」
「あ、今日は出かけてて、」
「そうか。」
隙あらばパパと接触しようと試みているようなリヴァイさんと、隙など作らず逃げまくるパパとの攻防が繰り広げられていた。
そんな2人の関係が、大きく変わる事件が起こった。
「え?何?聞こえな」
「だから!パパが現場作業中に怪我をして意識不明で病院に運ばれたのっ!あなたもすぐに来なさいっ!!」
その日は普通に学校のある日で。
授業中、先生が教室にやってきてママから電話が着てるなんて言うから何事かと思ったら、パパが仕事中に怪我をした、って内容だった。
「ママ…!」
「フィーナ!」
すぐに学校を早退して、パパのいる病院に向かった。
「パパは!?」
「まだ手術中で、」
パパは建築系の会社で働いている。
所謂、現場責任者の立場の人だ。
その時もパパが現場で指示を出していたそうだけど、何かの拍子で、
「落ちたの?高いところから?」
建設中の5階建てビルの4階あたりから落下したとのことだった。
幸いにも下にクッションになるような資材があったことや、そこまで高い場所からではなかったことで命に別状はないようだけど、
「意識が戻らなくて…、」
手術が終わった後も、パパはなかなか目が覚めなかった。
このままパパが起きなかったらどうしよう。
リヴァイさんが挨拶に来る、って言った日から、パパはどこか不機嫌で、私ともまともに会話しようとはしなかった。
なのにこのまま目が覚めなかったら…。
ブブブ
そんなこと思っていた時、制服のポケットに入れていたスマホが振動した。
慌てて電源切らなきゃ、と思ったら、それはLine通知で、リヴァイさんから『今どこにいる?』と言うメッセージだった。
そこでハッとした。
今日はリヴァイさんが早く帰れるから、って、放課後デートしよう、って言っていたのにすっかり忘れていた。
時計を見ると、もうとっくに夕方で、リヴァイさんが帰宅している時間だった。
「ち、ちょっと、電話してくる。」
病室で心配そうにパパの顔を覗き込んでいるママを残し、電話がかけられる場所まで移動した。
「フィーナか?どうした?」
耳元に響くのは、いつも通り多くは語らない、淡々とした口調のリヴァイさん。
「あ、あのっ、今日、ちょっと、行けなくなって、」
「何かあったのか?」
「な、にか、って、言うか…、」
「…なんだ?言ってみろ。」
でもだからこそ、ホッとしたような…。
「パパが、」
「うん?」
「パパがっ、怪我して意識不明でっ、」
リヴァイさんの声を聞いたら、それまで我慢していた涙が一気に溢れ出した。
「どこの病院だ?すぐ行くから待ってろ。」
病院名を告げたら、リヴァイさんとの電話は切れた。
病室で今もパパに付き添っているママもずっと、泣きそうな顔をしていた。
パパが本当に2度と目を覚まさなかったらどうしよう。
まだまだ言いたいこともあるし、聞きたいことだってある。
リヴァイさんのことだって、ちゃんと認めてもらいたいのに…。
1度溢れ出した涙は止まることなんてなかなか出来なくて…。
私はそのままその場で蹲って泣いていた。
「フィーナ!」
どのくらいそうしていたのか、名前を呼ばれて顔をあげると、
「リ、ヴァイ、さん、」
少し息のあがっているリヴァイさんが心配そうな顔で私を見ていた。
「悪い、遅くなった。」
「………」
思わず抱きついたら、私の背中を優しく撫でながらリヴァイさんはそう言ってきた。
首を横に振ると、ぽんぽん、と、頭を撫でてきた。
「お義母さんは?」
「病室、です。」
しばらくして落ち着きを取り戻した私に、リヴァイさんは聞いてきた。
2人で病室に向かうと、今だ目を覚まさないパパの手を握り締めているママがいた。
「ママ、」
「…わざわざ来てくれたの?」
「遅くなってすみません。」
「ううん、ありがとう。」
ママはリヴァイさんを見て驚いた顔をしたけど、すぐに…弱々しく微笑んだ。
「状態は?」
「命には別状ないみたいなんだけど…、起きてくれなくて…。」
「…」
「朝までこのままなら、もしかしたらずっと、」
そこから先は、ママが口にすることはなかった。
朝までに目が覚めなかったら…。
どうしよう、どうしよう、と思っていたら、リヴァイさんがパパの枕元に近づいた。
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bkm