2000年後もラブソングを


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Devote early summer to you


6


「ここ…」


リコちゃんのお兄さんに教えてもらった住所のマンション前まで着た。
今、この時を振り返って、よくこんなこと出来たな、若さと言う名の勢いって怖い、って思うけど…(今もまだ女子高生だけど!)
この時はただただ、これが本当に最後なら、せめて最後にきちんとお礼を、くらいな思いでいっぱいだった。


ピンポーン


表札には何も書いてなくて、本当にこの部屋であってるのか心配だったけど、そこはもうお兄さんを信じるしかないと、大きく息を吸ってチャイムを鳴らした。
でも…。


「…返事がない…。」


誰からも返事がないどころか、誰かがいる気配すら感じられず…。
どうしようか、もう1度だけ押してみようか、でもいなかったら、そもそもここの部屋じゃなかったら、いや仮にこの部屋でもいきなりなんて迷惑だったんじゃ、なんて。
ここまで来ておきながらいつもの癖で考え込み始めた時、


ガチャ


無機質な扉がゆっくりと開いた。


「…」


ドアを開けたのはリヴァイさんで、どこか赤い顔をしながら、私を見て驚いていた。


「あっ、あのっ、リコちゃんの、お兄さんにお家を聞いて、」
「…」
「き、今日が先生と、最後の予定だったから、お祭りの時にお借りしたハンカチと、お礼を持って来ててっ、」
「…」
「でも、お兄さんから先生寝込んでるって聞いて、だ、だけど、お礼だけはちゃんとしておかないと、って、」
「…あぁ…」


リヴァイさんは、私が一通り話したことで、ようやく現状が把握出来たのか、短く一言返事をした。


「あ、あのっ、い、いろいろと、ありがとうございました…!」


ハンカチとクッキーが入っている袋を、ベタに「受け取ってください」状態で俯きながらリヴァイさんに差し出した。
その数秒後、キィ、と、さらに扉が開く音と共に、私の手の中からクッキーとハンカチが無くなっていった。
瞬間、


ガタン!


物凄い音が辺りに響いたから驚いて顔をあげると、リヴァイさんが立ちくらみを起こしたのか、ドアに寄りかかって頭を押さえていた。


「だ、大丈夫ですか!?」
「………」


私の言葉に、リヴァイさんは大きく深呼吸をした。
そして、


「フィーナ。」


どこか掠れた声で、私の名前を呼んだ。


「お前今時間あるか?」


リヴァイさんが私の名前を呼んだのは、この時で2回目。
でも1回目はお祭りの時、リコちゃんのお兄さんとの電話で言っていただけで(この時泣きながらだったけど、リヴァイさんは私の名前知ってたんだ、って思ったくらいだ)私を目の前にして、私の名前を呼んでくれたのは、初めてのことだった。
だから仮にこの後予定があったとしても、きっと答えは変わらなかったと思う。
大きく1回頷いた私を見てリヴァイさんはゆっくり口を開いた。


「マンション出て右側に行くとコンビニがある。悪いが、ポカリ買ってきてくれないか?」


よく見たら、いつもサラサラに流れているリヴァイさんの髪の毛の1箇所がピン!と、寝癖がついて跳ねていて、どこか可愛らしさを感じた。


「は、はい!」
「じゃあ今金持って来るから、」
「あ、そ、それくらいならあるんで!後ででいいです!寝ててくださいっ!」


そう言った私をチラッと見たリヴァイさんは、玄関にあるシューズボックスの上から何かを手に取った。


「うちの鍵だ。鍵かけて横になってるから、買ったら適当に入ってきてくれ。チャイムも鳴らさなくていい。」


そう言って、黒いキーケースごと鍵を渡された。


「は、はい!じゃあ、行って、きます。」
「あぁ、悪いな…。」


私が歩き出した後、パタン、と静かに玄関のドアが閉まった。
今にして思うと、あのリヴァイさんがいきなり押しかけてきた中学生の子供に自宅の鍵を預けるなんてこと絶対にしないと思うから、やっぱりこの時は相当辛かったんじゃないか、って思う。
でもそんなこと気づくはずもなく、この時の私は、少しでも早くポカリを届けなければ!とちょっとした使命に燃えていた。


「ポカリ、ポカリ…、あった。」


リヴァイさんの言った通り、マンションを出て右側に少し行ったところにコンビニを見つけて、ポカリを手に取った。
…でも、あの顔少し赤かったし、熱、かな?じゃあ、冷えピタもあった方がいいんじゃ…、なんて。
普段はそこまで気が回らないくせに、なぜかこの時は頭がフル回転していた気がする。
幸いなことに、先日のお祭りで早い段階でみんなとはぐれて、お金を一銭も使わずに帰ってきた私の財布は、ポカリと冷えピタを買う分のお小遣いが残っていたわけで。
頼まれてないけど、あっても困らないはず、と自分に言い聞かせ、2つとも購入してリヴァイさんの待っているマンションに戻った。

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bkm

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