2000年後もラブソングを


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Devote early summer to you


5


どうせクッキーを渡すなら、ハンカチと一緒に渡そうかな、とか。
このハンカチもラッピングしようかな、とか。
…でもほんとは、これとは別のハンカチをプレゼントして、このハンカチは、ずっと持っていたいな、とか…。
私受験生なんだよね?って言うのをまるっと忘れていた期間だったと思う。
ちなみにこの期間の我が家のPCの検索履歴は「美味しいクッキーの作り方」とか「クッキー 味」とか「貰って嬉しいプレゼント」とか、そんな履歴だったと思うから、やっぱりこの期間は、受験生なんだ、ってことを忘れていたんだと思う。


「じゃあここは次までの宿題な。」
「はい。」


5回目の代理家庭教師の時間も終わってしまい…。
残すところ本当にあと1回になってしまった。
また会えるかなぁ、とか。
お兄さんのところにまた来てくれるかなぁ、とか。
そんなこと思いながら、お礼のクッキーを作ったのを覚えている。
そしてリヴァイさんの6回目の代理家庭教師の日。
クッキーとハンカチを持っていつものマックに行った。
…だけど…。


「お兄、さん?」
「あ、フィーナちゃん!Line通じないから焦ったんだけど、捕まって良かった。」


リヴァイさんは来なかった。


「ど、どう、したんです、か?」
「あぁ、リヴァイが昨日から風邪で寝込んでさ、」
「えっ!?」
「俺もなんとか昨日レポート提出し終わったから、そのまま代理終わってもらおうかと。」


お兄さんは苦笑いしながらリヴァイさんのこと、教えてくれた。


「だ、大丈夫なんです、か?」
「うん?あぁ、大丈夫じゃない?自業自得だし。」
「自業自得?」
「一昨日飲み行って酔っ払ってそのまま外で寝たから風邪引いたみたいだし。」


そういう大人になっちゃ駄目だよ、なんてお兄さんが笑いながら言った。


「で、でもっ、」
「うん?」
「先生、1人暮らしなんじゃ、」
「…あぁ、そうだね。まぁ死なないでしょ。」


大丈夫大丈夫って言うお兄さんは言うけど…。
この時の私は、いきなり「先生とお別れ」と言う事実と、「寝込んでいる」と言うリヴァイさんの現状にどうしていいのか、どうしたいのか、自分でもよく、わからなかった。


「じゃあ今日はここまで!」
「はい。」
「次からはまたうちでいいよ。」


そしてその日の勉強が終わり、さぁ帰ろう、と言う時。


「あ、あの、」
「うん?」


やっぱりこのまま、ハンカチも返せずお別れは嫌だな、って思った私は、お兄さんを呼び止めた。


「リヴァイ先生、に、お借りしてるハンカチと、お礼を、持ってきてるんです、が、」


お兄さんは一瞬、驚いた顔をしたけど、すぐ優しく微笑んだ。


「アイツ、あぁ見えて面倒見いいでしょ?」


私が頷くと、そういう奴なんだよね、とお兄さんは言った。


「んー…、そうだな、俺が預かってもいいけど、自分で届ける?」


後から聞いた話によると、この時のお兄さんはまさか私が自分で届けるなんて言わないだろうと踏んで、そう聞いたらしい。
でもそんなこと思いもしない私は、


「とっ、届けますっ…!」


きちんとお礼も、…お別れも言わないまま、リヴァイさんと会えなくなる、って…。
それだけは嫌だと思って、ただただ必死だった。
お兄さんは一瞬目を見開いたけど、すぐに、わかった、と小さく呟いた。


「じゃあアイツの家、教えてあげるから、」


これも後になってお兄さんから聞いたことだけど、本来なら絶対にリヴァイさんの家を本人の許可なく他人に教えたりしないんだそうだ。
…そりゃあ、あれだけ人に自宅を教えることを嫌がってる人なんだから、当然と言えば当然だ。
じゃあなんで?と聞いたらお兄さんは「力になってあげたくなっちゃったんだよね」と、にっこり笑っていた。
………そう、思われるくらいは、必死だったんだと、思う。
こうして、お兄さんからリヴァイさんの家を聞いて、キュッ、と、カバンの紐を握りしめながら、リヴァイさんのマンションを目指した。



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