2000年後もラブソングを


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Devote early summer to you


3


「お前の家、どっちだ?」
「あ、え、えっと、」


さっきのリコちゃんのお兄さんにかけたらしい電話の流れから、リヴァイさんが私を家まで送ってくれるようだ、と言うのは理解出来たけど、それでもこの状況についていくのがやっとで、言葉を詰まらせながら答えていた。


「あぁ、じゃあこっちから行った方が近いな…。」


リヴァイさんはそう呟くように言った後で、行くぞ、と言って歩き出した。
…ん、だけ、ど…。


「…………」
「…………」


慣れない浴衣と下駄で、男の人の足についていくのは大変で…。
数メートル、カラカラと音を立てながら必死に後をついて歩いていたら、ピタリ、とリヴァイさんが立ち止まり、私を振り返った。


「…あ、の?」
「…………」


こちらを見てはいても何も言わないリヴァイさんを疑問に思って声をかけたら、ほら、とでも言うように片手を差し出された。


「………」
「………」


どういうことか、って、しばらく私の方に差し出された手を凝視していたら、


「行くぞ。ぐずぐずするな。」


右手を掴まれ、リヴァイさんに引っ張られるように繋がれながら、再び歩き出すことになった。
この時、生まれて初めて、男の人と手を繋いでしまった私は、心臓飛び出るんじゃないか、ってくらいドキドキして、顔が熱かったのを覚えている。


「ここの店、変わったのか。」
「え?」


そうやってしばらく歩いていると、リヴァイさんがポツリ、と呟くように言った。
それに反応した私の方をチラリ、と見遣りながら口を開いた。


「…昔、ここに喫茶店があったんだ。」
「喫茶店、です、か?」
「あぁ。まぁ…、近所の学生のたまり場だな。俺も何度か来たことがある。」


リヴァイさんが喫茶店があった、と言った場所は、今は美容室になっていた。


「じゃあ、」
「…」
「寂しい、です、ね。そういうお店、なくなっちゃうと…。」
「……そうだな。」


その時ようやく、カラカラと急ぎ足で歩いていたさっきまでとは違い、カラン、カラン、と下駄の音が優しく辺りに響いているのに気がついた。


「あ、あの、先生、」
「あ?」
「す、すみま、せん。助けていただいた上、送ってもらって、」
「…あぁ…」


カラン、カラン、と夏になり始めた夜空に柔らかく響く。


「大事になる前で良かったな。」
「は、はい。」


淡々と、いつもマックで勉強を教えてくれていた時のように話すリヴァイさん。


「…複数いたし、その格好じゃ無理かもしれないが、次からはあぁいう時は、手に持っているカバンでもなんでもいい。思いっきり相手の顔面か股間にぶつけてやれ。」
「え、」
「相手に同情してやる必要なんか微塵もない。思いきりカバンを叩きつけろ。じゃないと逃げられねぇぞ。」


再びチラリ、と、リヴァイさんが私の方を見ながら言った。


「…が、がん、ばり、ます…?」
「………あぁ、頑張れ。」


私の返事を聞いたリヴァイさんが、フッ、と、笑ったのがわかった。
いつも無表情(下手したら怒ってるとも取れる表情)で、私に勉強を教えてくるリヴァイさん。
そのリヴァイさんが月明かりに照らされて、柔らかく目を細めていた。
出逢ったばかりの頃のリヴァイさんのこと、好きか嫌いか、と聞かれたら正直なところ困る。
ただただ、リヴァイさんにも、そして代理家庭教師を紹介してくれたリコちゃんのお兄さんにも迷惑かけないように必死だったから…。
…でもきっと私は、この時、この瞬間から、この人に恋をしたんじゃないか、って思う。


「あ、う、うち、ここ、です。」


その後、何を話すわけでもなく、ここにこんな店あったのか、とか、独り言のように言うリヴァイさんと、なんとか会話を続けようと必死に答えていたら、いつの間にか家についてしまっていて。
リヴァイさんはその言葉通り、本当にうちの前まで送ってくれた。


「き、今日は、本当にありがとうございました。」
「あぁ。」
「じゃあ、また週明けに、…お、おやすみ、なさい。」
「…おやすみ。」


そう言ってリヴァイさんに背を向け、家の中に滑り込んだ。
パタン、と、玄関の扉を閉め鍵をかけた後で、実はしばらくの間玄関先で、さっきまでリヴァイさんの手を握っていた自分の右手を見ていたんだ、なんてこと、今でも恥ずかしくてリヴァイさんに言うことが出来ない。


「わっ、リコちゃんからものすっごいLine通知着てる…!」


いい加減玄関先で呆けていた私は、突然我に帰り、自分の部屋に置き忘れたスマホを見て、迷惑かけてしまったリコちゃんに、どこかドキドキ、もしかしたらそわそわしながら、謝罪のメッセージを送った。

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bkm

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