2000年後もラブソングを


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Devote early summer to you


2


出逢ったばかりの頃のリヴァイさんをどう思っていたか、って聞かれても正直困る。
好きとか嫌いとか…。
そういうことよりもまず、


「よ、よろしくお願いします、先生。」


迷惑かけないようにしよう、ってことに必死だった(特にリコちゃんのお兄さんのお友達だし)
でもリヴァイさんは、


「『先生』?」
「え?」


どう思っていたのかな?って、いつか聞いてみたいなぁ、とは思っている。


「………」
「え、や、あの…、『家庭教師』の、『先生』です、よ、ね…?」
「…………あぁ、まぁそうだな。」


お兄さんから引き継いで、初めて勉強を見てもらう、って日。
駅マックで、無事代理家庭教師の先生と合流した私を待っていたのは、私以上に口数の少ない人とのコミュニケーションを強いられると言う、勉強以上の試練だった。


「今どこまで進んでる?」
「あ、は、はい。今、は、このページ、の、」
「…そうか。じゃあここから、」


リコちゃんのお兄さんはどちらかと言うと、勉強も楽しんでやらないと続かないよ、ってタイプの人だ。
だから覚えやすいコツ、って言うか、楽しくなりそうなコツを、ところどころに盛り込んで教えてくれる。
それに対してリヴァイさんは、


「違う。」
「え?」
「そうじゃない。ここの公式は、」


物凄く淡々と教えてくる人だと思ったのを覚えている。
最初は、突然こんなこと任されて実は怒ってるのかな、とか…。
そんなこと思ってた。


「じ、じゃあ、また来週、」
「あぁ。」
「ありがとう、ございました。」


3週間、週2回、駅マックでリヴァイさんに会う。
つまり全6回の代理家庭教師なわけだけど。
…………お兄さん、早くレポート提出終わらないかな、って。
当時ちょっぴり思ってた、なんてこと、リヴァイさんには口が裂けても言えない。
それくらい何というか……私たちには会話がほぼなかった…。
いや、教えてもらってるんだから、必要最低限の会話はあったけど、本当に必要最低限だけだった…。
それが3回、続いた後の週末。
その日は私たちの住む街で大きなお祭りがある、って日だった。
地元の人間は毎年、このお祭りがあることで夏が来たと感じるちょっとしたイベント。
そしてこの年は、今年で中学最後だし、と、クラスのみんなでお祭りに行こう、ってなった。
女の子は浴衣を着て集合、なんて、言われてみんなそのつもりで集まったんだけど…。


「どうしよう…。」


お祭り、って言うことは、当然、人が多いわけで。
普段歩きなれない下駄なんて履いて下ばかり向いて歩いていた私は、いつの間にかみんなとはぐれてしまった…。
この日、運悪くスマホを家に忘れてきてしまった私は、本当に途方にくれていた。
そしてお祭りと言えば、


「あれあれー?女の子がこんなところで1人ー?」
「君いくつ?女子高生?」


酔ったお兄さんが量産される…。
類に漏れず、そのご機嫌なお兄さんたちに絡まれた私は、この時すでに泣きそうになっていた。


「ねぇ、誰かと一緒なの?」
「…っ、…」
「お兄さんたちと一緒にお酒飲むー?」
「…ぃ、ぃぇ…」
「あっちにね、お兄さんたちの友達もいるから一緒に行こうって!」


掠れ声で返事しながら、どうしよう、どうしよう、って思っていたら、ガッ!とお兄さんに肩を掴まれてしまい…。
浴衣を着ていて思うように逃げられない私は、ただただ不安や恐怖に襲われていた。
その時、


「おい、ここで何してる?」


ここ最近、聞くようになった声が辺りに響いた。


「…お前1人なのか?」
「あ?なんだこのチビ。」
「連れはどうした?」
「おい、チビ、俺たちを無視してんじゃねぇよ!」


私の近くにいたお兄さんが、リヴァイさんに一歩近づいた。
その時、


「っ、先生っ!」


それまで怖くて声も出なくなっていたけど、リヴァイさんに向かって、思いっきり叫んだ。


「は?先生?って、コイツ教師かよっ!?」
「おい、もう行こうぜ。」
「くそっ!」


私の一言に、酔っ払いのお兄さんたちはぶつぶつ言いながら去っていった。


「……それで?お前ここで何してる?」


大きく1つ、ため息を吐いた後で、リヴァイさんが私に聞いてきた。


「あ、っと、…き、今日、リコちゃん、とか、クラスの、子、たち、と、来てて…。で、でもはぐれちゃって、けどスマホ、忘れてきちゃって、どうしたら、って、」
「………」


そこまで言ったら、緊張の糸が切れたように、ぶわっ、と、涙が出来て、その先を喋ることが出来なかった。


「………ファーラン、俺だ。今フィーナといるんだが、リコとはぐれたらしい。合流出来るような状態じゃねぇから俺が家まで送っていくとリコに伝えてくれないか?…あ?……あぁ、まぁ、少し、な…。あぁ、頼んだぞ。」


俯いて泣いていると、リヴァイさんのそんな声が聞こえた。
その直後、


「…………」


ぽんぽん、と、頭を撫でられる感触が伝わった。
その感触に、恐る恐る頭を上げると、過去数回会った時は、こんな間近で、しかも真正面から見たことないのに、って言うくらい近い距離にいるリヴァイさんが、月明かりに照らされて少し、困った顔をしていたのがわかった。


「使え。」
「……あ、ありが、とう、ござい、ます…。」


几帳面に畳まれたハンカチを、私に半ば押し付けるように渡してきたリヴァイさん。
そのハンカチでぐぃ、と目を拭いて、もう1度リヴァイさんを見ると、


「…じゃあ帰るぞ。」


背を向けて、歩き出そうとしていた。

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bkm

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