■2
「フィーナちゃん!」
「お兄さん。すみません、わざわざ…。」
「大丈夫、大丈夫。じゃあ行こうか。」
翌日、リコちゃんに言われた通り、お兄さんはわざわざ校門前まで来てくれた。
デートじゃない、と自分に言い聞かせるものの、やっぱりどこか、緊張するのは隠せずにいると、
「制服デートって懐かしー!」
お兄さんがニコニコしながら言ってきた。
…やっぱりデートなんじゃんっ!!
どうしよう、一気に緊張してきたし、一気にリヴァイさんに対して罪悪感が生まれた。
「相手がリヴァイの彼女じゃなかったら、もっと良かったんだけどね。」
「え?」
「だって、リヴァイの彼女とどうこう、ってのはあり得ないからさ。」
ね?と、お兄さんは言った。
…そうだよな、と。
お兄さんからしたら私は「親友の恋人」なわけで(しかも妹の親友でもあるわけで)いくら2人きりとはいえ、そんなおかしなことにはならないよな、って。
お兄さんの言葉に、どこかホッとした。
「(良かった、緊張が少し和らいだみたいで…。しかし…、勉強だけじゃなくそっち方面も、ほんと真面目なコなんだな…)」
お兄さんがそんなこと思ってたなんて知るはずもない私は、道中、お兄さんが振ってくる話題におかしな返答をしないように必死になっていた(だって相手はリコちゃんのお兄さんでリヴァイさんの親友なんだもの!)
「ところで、どんな奴がいいとか、検討つけてるの?」
「え、っと、時計、か、財布かな?って。」
「あぁ…、そういやアイツ、時計変えようかみたいなこと言ってたな…。」
「本当ですか!?」
「うん。ぶつけたか何かして、レンズにヒビが入ったとか言ってた気がする。」
お兄さんのこの情報に、プレゼントは意外にもあっさり決まった。
男の人が好きなブランドとか、さっぱりわからない私は、お兄さんのオススメでいくつかお店を周り、
「じゃあこれにする?」
「は、はいっ!」
リヴァイさんへの誕生日プレゼントを決めた。
「良かったね、いいの見つかって。」
「はい!ありがとうございます!」
お礼をかねてご飯を奢る、って言ったら、それは出来ない、って言われたから、美味しいって有名なお店のプリンをお兄さんにお土産変わりに渡した。
「俺も、学校帰り俺の誕生日プレゼント必死で選んでくれるような子ほしいなぁ!」
帰り道、もう遅いから、ってお兄さんはうちまで送ってくれた。
「お兄さん、恋人いないんですか?」
「いないんです。」
リコちゃんのお兄さんは、リコちゃんが自慢するだけあって顔も良いし頭も良いし、何より優しい、というか、穏やかな雰囲気を出している人だ。
「作らないんです、か?」
「作りたいような人がいないんです。」
その人に恋人がいない、って、ちょっと不思議な気がした…。
「なんだろうね?今は恋人よりも勉強に必死、っていうかね。」
「あぁ…、お医者さん、大変そうですもんね。」
「まぁ、簡単じゃないよね。」
家の前まで来て、お兄さんに深々と頭を下げ、その日は解散となった。
「……なんだ?」
「お前、時計買った?」
「時計?」
「あぁ。ほら…、いつだったか買い換えようとか言ってただろ?」
「いつの話だ、それ。んなのとっくに買い換えた。」
「…それ、しまっとけ。」
「あ?」
「お前が新しい、しかもたっかいのしてたらきっと泣く。」
「………」
「俺も女子高生の彼女ほしいなぁ!」
「…お前また合コンしてるらしいな?」
「いっや、それがさぁ、最近はもうなんてーの?『あんた医者になるんでしょ』光線を感じてもう誰も信じられねぇ状態!」
「…ハァ…」
「なんでお前がそこでため息吐くんだよっ!!」
「いい加減遊び歩くのヤメろ。」
「別に遊び歩いてるわけじゃねぇだろ!」
「俺はお前の心配をしてるんだ。」
「はいはい。」
「…今度イザベルに常連客でも紹介してもらえ。」
「え?」
「お前が主催の合コンよりはまともなのが見つかるはずだ。」
「…欲を言えばある程度レベル高い話が出来て、顔は綺麗系で体は出るとこ出てて締まるとこ締まってる子がいいんだけど。」
「俺が知るか。」
「ははっ、確かに。……まぁ、話それちまったけど、フィーナちゃんに会う時は、」
「あぁ…、時計はしない。悪いな。」
「そう思うなら今度合コンつきあえよ。お前いると女の子のノリが違う!」
「……………」
「冗談だって!じゃあまたな!」
もう仕事もしてて、お給料もそこそこもらっているリヴァイさんにしてみたらこれはもしかしたら安い時計なのかもしれない。
だけど私にとってはリヴァイさんにあげる「高級な」額に値する初めてのプレゼントだ。
喜んでくれるかなぁ、とか。
つけてくれるかなぁ、とか…。
まだまだ先の「その日」を今からそわそわしていた。
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bkm