■5
「…ん、」
目覚ましが鳴り響く。
音が止んだことで、やわやわと目を開くと、目の前には大好きな人。
…あぁ、そうか、私昨日泊まったんだっけ…。
「おはよう、ございます。」
「…………」
リヴァイさんがゆっくりと目を開け、ボーッとした顔で私を瞳に映した。
直後、
「っ!」
「………仕事行きたくねぇ………」
思いっきり私を抱きしめて、少し掠れた声でそう呟いた。
「き、今日、行けば、お休みです、よ?」
「……」
「ね?あと1日です、し、」
「んー…っ!?」
リヴァイさんが小さく唸った。
と、思ったら、体をビクッ!と動かした。
「おはようございます、朝ですが。」
背後から聞こえたその言葉に今度は私が体をビクリと動かした。
「お、おは、よう、ござい、ます…。」
振り返りつつそう言った私の目には、むくり、と目覚まし時計片手に起き上がったミカサの姿が飛び込んできた。
………あの目覚まし止めたの、ミカサだったんだ……。
別にそんな見られてまずいようなことしていなかった(と、思いたい)けど、なんだかとっても申し訳ないような気分になった。
ミカサに続いて起き上がった私の背に、リヴァイさんのため息が響いた。
「あ、朝ごはん、どうします?」
「いらない。」
「え!?」
私の言葉に、ミカサはそう言った。
「だ、ダメです、食べないと!ねぇ、リヴァイさん、」
「俺もいらん。」
「えっ!?」
リヴァイさんも言ってやってください、と言おうとしたら、リヴァイさんもいらないと言った。
「だ、ダメですって!!朝はちゃんと食べなきゃ!!」
「食べるくらいなら寝てます。」
「同意だな。」
だからそんなに不健康そうな顔色なんですよっ!!!
なんて言えるわけもなく(特にリヴァイさんに関して)
でもここは譲ってはいけない、と、食い下がった。
「じ、じゃあ、パン焼くので、半分でもいいからそれを食べてください!」
「だからいらん、と、」
「ダメって言ったらダメです!!朝はちゃんと食べてくださいっ!!」
「………チッ!」
リヴァイさんは私の言葉に小さく舌打ちをした。
「おい、パンだけでいいからな?あとは何もいらん。」
「サラダは?」
「いらん。ミカサ、お前も食えよ。」
「…いらな」
「ダメですっ!!」
私がそう言った直後、
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴り響いた。
「っ、」
その音を聞いた瞬間、ミカサがビクリ、と体を震わせた。
なんだろう、と思いながらも、玄関に行こうとしたら、リヴァイさんに手を掴まれた。
「おい。」
「…」
「お前じゃないのか?」
リヴァイさんは、ミカサにそう尋ねた。
「こんな朝っぱらから人んちのチャイム鳴らすような馬鹿はお前の知り合いだろう?」
「……」
「お前が出ないなら、俺たちも出ない。最もこんな朝早くから人んち来る非常識な奴、出てやる義理はねぇがな。」
「………別に、」
「あ?」
「そう思って出るんじゃなくて、誰も出ないから出るだけです。」
「さっさと出ろ。」
ミカサは、少し顔を赤くしながらいそいそと玄関に向かった。
「…あの、」
「気にするな。これもいつものことだ。」
「いつもの?」
「朝一でエレンがミカサを連れ戻しに来る。どんな喧嘩だろうが、その日に試験があろうが関係なく、電車で5駅の俺の家までわざわざ迎えに来て、お手手繋いで学校に向かう。いつものことだ。」
リヴァイさんの言葉にチラッ、と、玄関を覗くと、確かに、学ランを着たどこか不機嫌そうな男の子がミカサの前に立っていた。
そのエレンと、目が合ってしまい、
「…」
「…」
お互い、ペコリ、と、頭を下げた。
その後、リヴァイさんが言った通り、ミカサは朝ごはんを食べずに(厳密には食べてる暇がなかった)エレンと2人、部屋を出た。
去り際エレンがリヴァイさんに、今度また来ます、と言っていたのが印象的だった。
「………」
「………」
ミカサがいても大して話さなかったけど、いざ2人きりになると、何を話していいのか本当にわからず、そのまま2人朝食のパンをかじりながら、長い沈黙が続いた。
「お前は、」
「はい?」
その時、リヴァイさんが口を開いた。
「毎日朝メシ食ってるのか?」
「え?…そう、です、けど?」
何を聞いてくるんだろう、と思ったら、そんなことだった。
「今後、」
「はい。」
「お前と暮らすようになったら、毎朝食わねぇとなんだよな?」
「…………」
リヴァイさんは、朝のニュース番組を見ながら、呟くように言った。
「夕飯減らせば少しは食えるのか?…いや、夕飯の時間か?」
テレビからは今日の星占いが流れてきていた。
「リヴァイさん、」
「あ?」
「…少しずつ、夕飯の量減らして、朝食べる量を増やせばいいんじゃないですか?」
「………」
「きっと続ければ慣れますよ。」
「…あぁ、そうかもな。」
眉間にシワを寄せてため息混じりにそういうリヴァイさん。
…でもどうしよう。
その仕草も全部含めて、今のこの時間が、発狂しそうなほど、愛おしいと感じた。
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bkm