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「で、でも、」
「あ゛?」
ミカサが中学生だから泊めても問題ない、と言ったリヴァイさん。
それに対して未だ食ってかかろうとする私に、リヴァイさんは機嫌悪そうな声を出した。
「その中学生が何をしに、」
「…まぁ、いろいろあって家を飛び出した、ってところだ。」
「…………」
リヴァイさんがミカサを見ると、ミカサは(なぜか室内なのに巻いている)赤いマフラーを握り締めた。
「い、家出、ってことです、か?」
「違う。」
私の言葉に反応したのは、ミカサだった。
「家出じゃない。」
「けど、」
「エレンが謝るまで私は帰らない。」
「えれん?」
「…ので、エレンが迎えに来るまでここにいます。」
「…………は?…ど、どういうことですか?」
この子やっぱりリヴァイさんのいとこだ、って思うほど、言葉がなんというか…足りない。
私に言われたくないだろうけど…。
ミカサの言ったことがどういうことなのか、隣にいたリヴァイさんの服の裾をつまみながら聞いた。
「…まぁ…、早い話が『家族』と『痴話喧嘩』した、ってところか?」
「痴話喧嘩、って、だってそれは恋人とかに使う言葉で、」
「だから恋人なんだろう?」
「家族!…です…。」
リヴァイさんの言葉に脳内にクエスチョンマークが飛び交っている私に、ミカサが少し大きな声で「家族」と言ってきた。
…………ますます意味が……。
「家族、が、恋人なんですか?」
私の至極当然と思われる質問に、リヴァイさんはチラリと私を見たあとで、ため息を吐いた。
「昔ミカサの親が海外転勤になって日本を去る時、ミカサが交流のあった隣の家のガキの意識を失わせて箱に詰めて荷物として連れて行こうとした事件があった。」
「え!?」
「ガキの分際で見事に気絶させてたらしく、そのガキが発見されたのは出国前の荷物検査の時だ。」
「…」
「そしてそこからが大騒ぎになった。気絶してるガキをよそに、ミカサが大暴れをしでかしその日の出国は延期。駆けつけた隣の家の保護者とミカサの親との長い話し合いの結果、ミカサはそこの家に居候させてもらうことになった。」
淡々と過去の出来事を語るリヴァイさん。
…………て、ゆうか、この段階で既にいろいろツッコミどころ満載なんだけど、どこからどうツッコミを入れればいいのかわからない…。
「両親不在の間、隣の家の人間がミカサの保護者にはなってくれるが、一応『親族』の誰かにもこの話をして何かあった時の連絡役に、と、当時成人したてで1番近くにいた俺に白羽の矢が立ったわけだ。」
「…」
「ガキのお守りなんざごめんだが、俺にメリットがないわけじゃなかったしな。」
「メリット?」
「コイツの親がうちの会社の会長と懇意にしている。」
「………それって、」
「あぁ。俺を将来的に『大企業』の部類に入る会社にコネ入社させると言う条件で引き受けた。」
………つまりものっすごい、強かな計算が働いたわけですね………。
「で、以来、何かある度にコイツから連絡が来るわけだが…。」
「…」
「今回はコイツが居候してる家のガキと喧嘩して飛び出してきたわけだ。」
なぁ?と、ミカサに言うリヴァイさん。
その言葉に、
「私は悪くない。」
ブスッ、とした顔をして答えたミカサ。
…………………つまり?
リヴァイさんはある種この子の保護者なわけで。
その子が家を飛び出して来た以上、保護する責任があるわけで。
そこはわかる。
そこはわかるんだけど………。
「どこに泊めるんですか?」
リヴァイさんの家(というか部屋は)独身男性が住んでいる極々普通の1DKなわけで。
とてもじゃないけど、女子中学生を保護、同居できるようなスペースなんて…。
「ここに泊めるしかねぇだろ。」
「どこに寝かせるんですか?」
「そこのソファが空いてるじゃねぇか。」
「ソ、ソファ!?女の子をソファで寝かせるつもりですか!?」
「あ?」
「ダメですよ!ミカサはまだまだ成長期で、」
「じゃあ俺と一緒にベッドに寝るしかねぇな。」
「は!?なんでです!?リヴァイさんがソファで寝たらいいじゃないですかっ!」
「…………お前はいったいどっちの味方で何がしたいんだ?」
私の言葉に、少しの沈黙の後、リヴァイさんはため息混じりに言ってきた。
何がしたいって言われても、自分でもよくわからないわけで…。
そもそもにして、リヴァイさんが女子中学生を泊める、と言うのも私的には大問題なわけで。
2人の事情を踏まえた上で、譲歩にも似た気持ちで先を聞いたら、女の子をソファで寝かせるとか言うし。
それはダメ、って言ったら一緒にベッドで寝るなんて、もっとダメに決まっていて。
もうそこまで来たら一体どっちにどう言うのが正解なのかわけわからない状態になってしまっているわけで………。
「趣味、」
「あ?」
「変わりました?」
「なんの?」
「傍に置く女の。」
「………」
「今までになく、」
「………」
「珍獣。」
「テメェ、明日には家に帰れ。」
「しかも若い。あの制服、女子高生?」
「………」
「犯罪?」
「今すぐ帰れ。」
「けど、」
「あ゛?」
「おもしろい。…かも。」
「あ゛ぁ?」
私がぐるぐると考えていたら、
「提案、です。」
ミカサが右手を軽く上げて訴えてきた。
「この人は、絶対にソファで寝ません。」
この人、と、チラリ、とリヴァイさんに目を向けたミカサ。
それに対して、何が悪い、と言う顔をしているリヴァイさん。
「でも、私がソファで寝るのは、フィーナ、さん?が、許さない。」
その言葉に1度頷いた。
「…ので、ベッドで3人で寝るのはどうでしょう。」
「「……………」」
絶対に、冷静に考えたらこれはおかしい提案だと思う。
リコちゃんが聞いたら、お前ら馬鹿か?って言うと思う。てゆうか言うに違いない。
でもこの時の私は、
「おい、お前。いい加減ふざけたこと抜かすと」
「そうしましょう。」
「あ゛?」
「もうそれしか解決策はないです。たぶん。」
これ以上の解決策を見いだせず、それに同意することにした。
「ふざけるな!俺のベッドで3人も寝れるわけねぇだろっ!」
「大丈夫ですよ、詰めれば。」
「そういう問題じゃないっ!おい、お前も、」
「フィーナ、さん、が、真ん中になれば問題はないかと。」
「そ、そうですね。そうしましょう。」
「そこで結託するな!!」
そしてこの数分後、親に今日はリコちゃんの家に泊まる、と電話を入れた私を待っていたのは、お茶でもどうぞ、と、未だ赤いマフラーを巻いているミカサと、ものすっっっっごく不機嫌な顔をしたリヴァイさんだった。
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bkm