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「もうあの人はほんとに…。」
ため息混じりにそう呟いたのはモブリットさんだった。
「す、すみま、せん、」
「うん?」
「私がちゃんと、場所とか、聞いてたら…、」
会わずに済んだんですが、とまでは、言うことが出来ずにいた…。
「いや、俺はほら、そこは構わないんだけどさ。」
「…」
「フィーナちゃんはそこを気にするより、もっと気にした方が良いことあるでしょ。」
あるでしょ、と言いながらその人物に見えないように親指で指さしたモブリットさん。
「……………」
「まぁ…、頑張ってね。」
モブリットさんからの声援を受けて、チラッとそちらを盗み見るものの、
「せんぱーい!こっちのお肉、」
「俺の側に寄るな。」
「ひっどーい!!」
あの素晴らしい水着のお姉さんにべったりとくっつかれていた…。
……………あぁいうところ、初めて見たけど、リヴァイさん、あぁいう人に言い寄られてたんだ………。
「…………」
チラッと、パレオの奥に隠れてる(現在ホルターネックとして巻いている)胸に目をやるものの、
「…………」
余計虚しくなっただけだった……。
…どうしよう、あんな人と毎日一緒に仕事してるの?
あんな体で誘惑されたら(しかも美人!)そんなだって私がリヴァイさんだったら絶対私となんて別れてるんだけど………。
なんて、物凄く支離滅裂な考えをぐるぐると考えていた時、
「ねぇ!」
「え!?」
突然声をかけられた。
「これから肉焼くけど、手伝ってくれる?」
「え?あ、う、」
「焼くだけ焼くだけ!」
「あ、や、えぇ、っと、」
「俺料理出来ないから助けて!ね!」
「焼くだけなら1人で焼け。」
知らない半裸の(厳密には水着の)男の人に(親しげに)声かけられてしまった…!!
どうしよう、こんな時何て答えれば、と固まっていたら、
「痛いってっ!!」
リコちゃんの頭を片手で鷲掴みにして、引きずるように引っ張ってきたリヴァイさんが、
「どうしても手伝いがほしいならコイツをくれてやる。」
「ちょっと!何するんだよ、このチビ!!」
お肉を焼かないか、と聞いてきた人にリコちゃんをまるで投げつけるように差し出した…。
「ソイツも『現役女子高生』だ。好きにしろ。」
それだけ言うと、リヴァイさんは私の手首を掴んでその場から離れた。
「ち、ちょっと待ってくださいっ!」
「あ゛?」
リヴァイさんはパラソルの下に用意されたイスにドカッと座りながら、短く答えた。
「す、好きにしろってなんですか!リコちゃんに何かあったら、」
「………」
私がそこまで言うと、リヴァイさんは無言で私たちが今来た方向を指さした。
その先を見ると、リヴァイさんに生贄のごとく差し出され当惑していたリコちゃんを助けるべく、イアンさんがやってきて、あの言動からリヴァイさんの部下であろう人とリコちゃんの間に入って、何か話したあとで、リコちゃんを連れ去って行った。
…そう、「連れ去って行った」
「………え?ど、どこに行っちゃったんですか、ね?」
「さぁな。そこらへんの草むらにでも引っ張り込むんじゃねぇか?」
「え!?く、草むらで何するんですか!?」
「…トランプするとでも思ったか?」
いや、そんなわけないじゃないですか。
そんなわけはないんですけど、でもそれってだって…。
「た、」
「あ?」
「大変じゃないですか!?」
「…別に大変じゃねぇだろ、合意なら。」
お前何言ってんだ?的にリヴァイさんは言う。
「だめですよ!」
「あ゛?」
「リコちゃんにそんなつもりはありませんっ!」
「んなこと、俺が知るか。」
「止めなきゃじゃないですかっ!!」
「だったらお前1人で行けばいいだろう。」
「…………や、それ、は、」
だって、仮にリヴァイさんが言う通りなら、私が今ここで行ったところでリコちゃんにそのつもりがなかったとしても元々たぶん、イアンさんのことが好きだったんじゃないか、って言う疑惑があったくらいなんだからもしかしたらもしかしたら、なんて思ってしまったら行けるわけがないと思うんですが…。
「おい。」
そんなことぐるぐると考えていたら、
「あのクソメガネのことはどうでもいい。」
「はい?」
「テメェ、なんでここにいるのか説明はあるんだよな?」
地を這うような声でリヴァイさんが聞いてきた。
「……………」
私……、人の心配、してる場合じゃ、なかったんだった……。
現在、リヴァイさんの部下の人が用意したであろう、パラソルの下でいい感じに日陰になっている場所に置かれたビーチチェアにリヴァイさんは座っていて、私はというと、
「……………」
燦々と照りつける日差しの下、日陰に入ることも憚られ、座ってるリヴァイさんの前に立ち尽くしていた…。
「モブリットさん、」
「うんー?どうしたー?」
「リヴァイさんと一緒にいるあの子、なんなんですか?」
「え?…あぁ、あの子はリヴァイさんの、」
「こっから見てるとあの子完全に怯えてるようにしか見えないんですけど、助けに行った方がいいんじゃないですかね?」
「(それはつまりあの人の痴話喧嘩に首突っ込めってことだろ?)俺にその勇気はない。」
とにかくこのままではまずい、と。
何か言おうと大きく息を吸い込んだ。
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bkm