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「わたしのこと、すきですか?」
「……はぁ?」
それまでローソファに座りテレビを見ながらお酒を飲んでいたリヴァイさんは、お前何言ってんだ?って顔をしながら私を見上げた(私は現在立っている)
「わたしのこと、すきです、か?」
「お前まだ酔ってるのか?」
眉間にシワを寄せながらリヴァイさんは私を見てきた。
「わたしの、こと、すき、です、か?」
「…あぁ。そんなことより今日はリコの家に泊まってると、リコからお前の親に電話してもらったから、」
「………『そんなこと』?」
「あ?」
明日も学校なんだからさっさと寝ろ、とでも言うかのように、ベッドを指さしながら話すリヴァイさんに、なんだか視界が滲んできた気がした。
「りばいさん、」
「なんだ?」
「………わたしのこと、すきです、か?」
「…だからさっき『あぁ』と言っただろうが。お前いい加減に」
「そ、れは、」
「あ゛?」
「すき、って、いわない…」
「はぁ?……お前、泣いてるのか?」
本当に、本当に呆れたような声を出したリヴァイさん。
その言い方に、ズキズキと、胸が痛む…。
「すき?って、きいて、あぁ、って、」
「…」
「どうでもいい、みたい、で、」
「……」
「そ、んなの、すきじゃ、ない、と、いっしょだよ…」
「お前泣き上戸だったのか…。」
めんどくさい、と、でも言いそうなほど、リヴァイさんは盛大にため息を吐いた。
その態度に、びくり、と、体が反応した。
「りばいさん、」
「だからなんだ?」
リヴァイさんの態度に、なんだか力が抜けて、ペタリ、とフローリングの床に座り込んだ。
片腕だけ、ローソファの背もたれの上に乗せ、少しだけ体を捻って、後ろにいる私を見ているリヴァイさん。
そのリヴァイさんの二の腕あたりの服を、俯きながらキュッ、と掴んだ。
「わたしのこと、『ちゃんと』すき、です、か?」
どうして、私はイザベルさんのお店には、連れて行ってもらえなかったんだろう。
未成年だから、って、こともあるかもしれない。
でもそれなら、他の場所でだって、リヴァイさんのこと、お兄さんみたいに慕っているイザベルさんのこと、紹介してくれたって、いいんじゃないか、って、思う、けど…。
そうしなかったのは、
−見た目も性格も派手?いかにもー!って感じのフェロモン撒き散らしてそうな奴らだったかなぁ?−
もしかして、私を紹介するの、恥ずかしい、とか、思ってたり…。
なんて…、どんどんどんどん、考えがマイナスな方に向かっていく。
そんなこと思う自分も嫌なら、そんなこと思うほど自信のない自分も嫌になって。
どんどんどんどん、深みにはまっていった。
「イザベルに何か言われたのか?」
「…」
リヴァイさんは、今にも泣き出す(もしかしたらもう溢れてるかもしれない)私の目尻を親指の腹で拭いながら言う。
「好きでもなければ、勝手に飲んで酔いつぶれた女迎えに行って、わざわざおぶって帰って来るか。」
そう言ってリヴァイさんは私の頭を引き寄せ、今さっき指の腹で拭った目尻に唇を落とした。
「りばい、さん、」
「なんだ?」
「わたし、の、こと、すき、です、か?」
「…あぁ、好きだ。だから泣くな。」
コツン、と、額と額がぶつかった。
リヴァイさんの、綺麗な瞳の中に、私を見ているかのような私が映っていた。
「ど、こが、」
「うん?」
「どこが、すき、です、か?」
「…………」
額をくっつけたままのリヴァイさんが、息を吸い込んだのがわかった。
「どこだろうな?…純粋で努力家なところは気に入ってる。」
「じゅんすい、で、どりょく、か…」
「俺の後ろを着いて歩く姿も悪くない。」
「…」
「料理はまぁ、どう贔屓目に見ても俺の方が出来るだろうが、お前は掃除が上手い。そこは本当に助かっている。」
「……」
「でも1番は、お前は他の女と違って、一緒にいて安らげる。」
そこまで言うとくっつけていた額を離し、ぎゅっ、と私を抱きしめた。
それはいつもより、ずっと優しく、でもずっとずっと、温かい。
「り、ばい、さん、」
「うん?」
「わたし、りばいさんが、だいすきです。」
「そうか。俺も好きだ。」
リヴァイさんはそう言うと、腕の力を強めた。
「し、」
「し?」
「しんぞう、が、どきどき、して、こわれそう、です、」
「…………」
リヴァイさんは、こういうこと、ほとんど、言わない。
…から、ズキズキと傷んでいた心臓が、さっきからバクバクと、煩いくらい跳ねあがっていた。
「安心しろ。」
「え?」
「お前の心臓が壊れないように、俺がちゃんと見ててやる。」
どこかおかしそうに言うリヴァイさんの声が耳元で聞こえたかと思うと、そのままチュッ、と、言う音が耳に響いた。
「り、りばい、さんっ…!」
「うん?」
「だ、だめです、」
「…あ?」
「しんぞうが、こわれますっ…!」
「……………」
リヴァイさんが。
「あの」リヴァイさんが。
甘いこと囁きながらいちゃいちゃするなんてそんなもう私の心臓は…!!
「ならば俺の心臓を分けるか。」
「え?」
「お前になら分けてやってもいいぞ。」
「……あ、の、」
「うん?」
「よ、よって、る、んです、か…?」
「さぁ?どうだろうな。」
お酒のせいだけじゃない、体温上昇中の私は、今にもくすくすと笑いだしそうなリヴァイさんに抱きしめられながら、その日は眠りについた。
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bkm