2000年後もラブソングを


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Devote my heart to you


2


それから数日。
結局リヴァイさんは何事もなかったようにしてるし(実際何事もなかったんだろうけど…)
ちょっとした心のモヤがかかったまま、日々は流れて行った。


「今日、です、か…?」
「そう!急に2人休み出ちゃって、」


最近インフルエンザなんて流行ってるせいか私のバイト先でも漏れることなく、お休みする人が出てしまったらしく、急遽バイトに来れないか、って私のお昼休みを狙って店長から電話をもらった。
特にすることもなかったから、その申し出を快諾して19時までのバイトに入ることにした。
本屋さんと言っても動くから、制服の短いスカートなんかで出来るはずもなく、いつも一旦家に戻って着替えてからバイト先に行っていた。
バイトなんだから、そんな可愛い格好、出来るはずもなく…。
そんな時に限って、


「「あ、」」


綺麗でスタイルも良い、イザベルさんに会った…。


「確か、兄貴の『新しい女』」
「こ、こん、にち、は…。」


イザベルさんはやっぱり私を『新しい女』って言い方をした。


「何?どっか行った帰りか?」
「あ、バイト、してた、ん、で… 。」
「バイト?ここら辺?」
「そ、そこの、本屋で、」
「本屋!?」


イザベルさんは、私の言葉に声を裏返してきた。


「あ、の?」
「あ、悪い悪い。見た目もだけど、…ほんっとーに、今までの兄貴の恋人と擦りもしない女選んだんだな、って思って。」
「……い、今まで、って、」
「うん?」
「どんな、人、です、か…?」


私の言葉に、数回瞬きをした後、イザベルさんはうーん、と唸り出した。


「見た目も性格も派手?」
「派手…」
「いかにもー!って感じのフェロモン撒き散らしてそうな奴らだったかなぁ?」
「…フェロモン…」
「まぁ間違っても地味に本屋で働こう、って感じの奴らじゃなかったよなぁ。」


うんうん、と頷きながらイザベルさんは言う。
フェロモン撒き散らしてて、地味に働かないような人たち…。
イザベルさんの言葉に、ずーん、と、心に重石が乗った気がした。


「あ、今暇?」
「え?」
「俺、バーテンダーなんだけど、これから来るか?」


今日暇だし、と、兄貴の新しい彼女なら仲良くしたいし、と、イザベルさんは言う。


「暇、です、けど、」


バーテンダー、って言うことは、そのお店はお酒を扱うわけで…。
暇であっても、いけるわけ…、なんて思った瞬間、


「あ、でも兄貴が俺の店連れて来ないってことは、教えない方がいいのか?」


イザベルさんが呟くように言った。


「あの、」
「うん?」
「…も、元、カノさん、とか、は、行ってたん、です、か?イザベルさんのお店、」
「あぁ、うん。女変わるたびに連れて着てたけど?それがぱったり来なくなったからどーしちまったのか、って思ってたんだよな。」


イザベルさんは顎に手を置き考えるような素振りを見せた。
……元カノさんたちは、イザベルさんのお店、連れて行ってたんだ…。


「うーん、一応兄貴に電話してみて、」
「い、行きます!」
「え?」
「お店、連れてってくださいっ!」
「あ、マジで!今日ちょー暇だからすっげぇ嬉しい!じゃあこっちこっち!」
「で、でも私、持ち合わせが、」
「大丈夫、大丈夫!兄貴の彼女なら俺が奢るぜ!」


あははー!と笑いながら、私の背を押すイザベルさんに連れられ、人生で初のBARと言うものに足を踏み込んだ。


「何飲むー?」


今日オーナーいないからなんでも頼んでくれ、なんてイザベルさんは言うけど、何頼んでいいのか…。


「あ、もしかして酒あんま飲まない?」


あんまり、と言うか、まだ未成年なんで飲んだことが…。
なんて思っても、こうなった以上言えるわけもなく、曖昧に笑った。


「んー、じゃあテキトーに作っていいか?」
「は、はい。」


私の言葉を聞いて、イザベルさんは器用に器に液体を混ぜていきかしゃかしゃと振り始めた。


「あの、」
「んー?」
「どこで、」
「うん?」
「リヴァイ、さん、と、どこで知り合ったんです、か?」


私の問いに、あっという間にドリンクを作って、はいどーぞ、と私の前にグラスを差し出しながらイザベルさんは言った。


「俺さー、中学の時レイプされかけたんだよね。」
「えっ!?」


使った道具を片づけながら、イザベルさんが淡々と言う。


「ベタに草むらに引きずりこまれてさ。」
「…」
「ヤバイ、ヤられる!って思った時、『ソイツはお前の恋人か?』って声がしてさ。」
「…」
「んなわけねぇだろっ!って叫んだ直後、俺襲ってた奴、吹っ飛んでたんだよねー。」
「…それって、」
「兄貴が喧嘩強いの知ってる?」


にっ、笑いながらイザベルさんは言う。


「は、い。」
「もうさ、俺襲った男、フルボッコにしたんだよねー!」


…それはつまり、イザベルさんにとってリヴァイさんは、


「お、」
「うん?」
「王子様、みたい、な、話です、ね…。」


ピンチを救ってくれた、ヒーローなわけで…。
むしろそのヒーローに、恋に落ちるものなんじゃ…、なんて思ったら、思わず口を着いていた。


「それがさー、そこで済めば王子なんだろうけど、」
「…」
「レイプ魔ボコった後で、ガキがこんな時間に出歩いてるのが悪いって今度は俺がボコられたんだよな。」
「…は?」
「まぁ、レイプ魔よりは軽かったけど、次の日瞼腫れてたくらいは容赦なかったなぁ。」


………リヴァイさん…、女の子相手に手上げたんだ…。


「でも俺の親…ネグレクトって知ってる?」
「言葉、だけなら…。」
「まぁそういうことする奴らだから、俺の素行にあそまで怒るような奴、兄貴が初めてでさ。で、以来兄貴兄貴ってくっついてる、ってわけ!」


兄貴はなんだかんだですごく世話焼きだしさ、って。
それは、わかる、気が、する…。


「あんたは?」
「え?」
「出会い。合コン?」
「ご!?…そ、いう、の、嫌がる人、じゃ、ないです、か…?」


イザベルさんから聞いた言葉が信じられなくて、思わず聞き返した。


「そうかー?兄貴よく…ファーランて知ってる?兄貴がよくつるんでる。」
「あ、は、はい。ファーランさんは、」
「アイツ主催でよく合コンしてたけどな?」


ファーランさんは友人のお兄さんです、て、言おうとしたところ、イザベルさんは飛んでもないことを言ってくれた。


「リヴァイ、さん、が、」
「そーそー。兄貴昔っからモテてたから、お持ち帰りしてんだかされてんだかわかんねぇけど、合コン行ったって話聞いた後は絶対女変わってたな。」


…………リヴァイ、さんが…………。


「そういやあの頃から、いかにもフェロモン撒き散らしてる系と一緒にいたけど…、」
「…………」
「兄貴とつきあいだしたキッカケって何?」


……………イザベルさんの話によると、リヴァイさんは、昔から私とは真逆なタイプの人を取っ替え引っ替えしていたようで…。
ハンジさんからは、リヴァイさんの元カノさんはそりゃあもう素晴らしい体型の人たちだった、って聞いてたけど、本当に昔からつきあいがあるらしいイザベルさんの証言でそれはさらに肯定されて…。
そういうお姉さんたちを、イザベルさんのいるこのお店に連れて来ていたわけで。


「…おい、聞いてるか?」


そりゃあいくら私が未成年だからって、それにしたって1度もこんな行きつけのお店があるなんて言ってくれなかったわけだし、イザベルさんと偶然だったとしても会ってお話だってしたのにそれっきり何にも話してくれないし…。
そもそもイザベルさんだって「偶然」会わなかったら、知らないままだったわけだし…。
……………え、何それだって、元カノさんたちにはイザベルさん紹介してたのに、なんでなんでなんで。


「…もしかして俺、何かまずいこと言っちゃった?」
「え?あ、い、いえ、大、丈夫…、です…。」


何がどう大丈夫なのか、自分でもよくわかってないのに、そう答えて、目の前にある、キラキラと淡く輝くカクテルに手を伸ばした。



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bkm

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