■1
「え?ほしいもの?」
きっかけは、本当に些細な口げんかだったと思う。
でもそれが原因でしばらく距離を置いていた(というか置かざるを得なかった)私たちは、この日ようやく仲直りした、というか出来た、というか…。
そして、リヴァイさんに家まで送ってもらう途中で、唐突にほしいものはないかと言われた。
「あぁ。何かあったら言え。」
「別、に、ない、です、が…?」
「なんでも良いぞ。」
なんで突然、て思ったけど、それはきっと、この人なりの罪滅ぼしなんだろうか、なんて思った(だって口げんかの原因も9割がリヴァイさんが言葉足らずなせいだから…!)
「な、」
「うん?」
「なん、でも、いいんです、か?」
リヴァイさんの言葉に、念を押すように聞いてみた。
「あぁ。」
「じ、じゃあ!」
「なんだ?」
「時間、ください。」
「………は?」
私の「欲しいもの」を聞いて、リヴァイさんは少し、声を裏返した。
「リヴァイ、さん、の、時間、ください。」
「……」
「ほ、ほら、最近、あん、まり、会えなかった、から…。」
「………」
「あ、で、でもっ、忙しいなら、別にっ、」
「そんなことでいいのか?」
私の言葉に、リヴァイさんは本当に頭にクエスチョンマークをつけたような、そんな顔をして聞き返した。
「それがいいんです!」
「……そうか。」
「はい!」
「…じゃあ時間出来そうな時は、」
リヴァイさんはいつものように淡々と話す。
こうして、喧嘩して会えなかった日を埋めるべく、平日でもリヴァイさんが早く帰宅出来そうな日は会うと言う約束をした。
そして、
キンコン
「あ、Line着た。えぇーっと、今日…」
『今日、定時であがれそうだ。お前時間は?』
人生で初めて、放課後デートというものを経験することになった。
今までリコちゃんちに勉強しに行った時にたまたまリコちゃんのお兄さんのところに来ていたリヴァイさんに会う、とかはあったけど、デートをする!って前提で放課後に
しかも制服で会うのは、初めてだった。
「あれ?フィーナ、今日部活は?」
「ぺトラ、ごめん、今日、は、ちょっと、」
「あぁっ!リヴァイさんに会いに行くのかっ!?」
「オルオ、声大きい…。」
部活の後輩のオルオとぺトラは、1度だけリヴァイさんに会ったことがある。
リヴァイさんとデートしていた時、何やら怪しげな人に絡まれているオルオとぺトラを見つけた。
普通逆な気もするけど、なぜかオルオを庇うように前に出ていたぺトラが、怪しげな人に手を挙げられようとするタイミングでオルオがまるで王子様か何かのようにぺトラを庇いボッコボコにされる。
って、ところで、本当に王子様のように、この2人をリヴァイさんが助けてあげたと言う出来事があった(めんどくせぇなぁ、って言いながら助けに行ったのが本当にリヴァイさんらしいと思った)
ハンジさんから以前チラッとだけ、聞いたことあったけど、リヴァイさんは喧嘩が強いらしい。
曰く、相手が可哀想になるほどに。
そしてここからはリコちゃんの話だけど、あの穏やかなリコちゃんのお兄さんも中学の時傷だらけで帰って来たことがあったらしいから、ハンジさんの話は、あながち嘘じゃないんじゃないかと思っていた。
そして実際「そういう現場」を目の当たりにしたわけだけど、その時のリヴァイさんは、そりゃあもう、鬼ってこういう人のこと言うんじゃないだろうか…、って、思ったくらい、オルオとぺトラに絡んでた人たちを有無を言わさずぼっこぼこにしていた……。
突然のリヴァイさんの登場に、唖然としていた2人だったけど、私の恋人だとわかると(特にオルオが)ものすごいキラキラとした、尊敬の眼差しをリヴァイさんに向けて始めた。
で、その後お礼、って言われてものすごく帰りたそうにしていたリヴァイさんと私を、半ば強制的に近くの喫茶店に連れ込みいかにリヴァイさんがカッコよかったかを延々3時間も聞かされた…。
リヴァイさん嫌がってないか、って心配になったけど、2人に連れて来られた喫茶店の紅茶が思いの外気に入ったようで、3時間の2人の盛り上がりを紅茶をおかわりして黙って聞いてやっていた、と言うことがあった。
…以来(なぜか懐いた)オルオは、リヴァイさんに会わせろ会わせろと事あるごとに言ってくる。
気分はすっかり舎弟か何かのようだった…。
「リヴァイさんとどこで待ち合わせ!?」
「……言わないから来ないで……。」
「なんで!?俺も久しぶりに会いてぇんだけどっ!」
「そのことは伝えておくから、今日は来ないで。」
「いいじゃねぇかよ!なぁ、ぺトラお前も痛ぇっ!!!」
「信じられない、なに人のデート邪魔しに行く宣言してるのよ!!」
「べ、別にデート邪魔しようってわけじゃ、」
「十分邪魔でしょっ!もっと気を使いなさいよっ!!」
「お、俺だってなぁ、」
「だいたいオルオはいつも、」
「な、なんだよ別にそんなこと、」
オルオをぶん殴ったぺトラはそのままバトルを開始してしまった…。
…これ…、終わるまで待ってた方がいいのかな…。
でもそろそろ学校出ないとリヴァイさん、仕事終わっちゃうし…。
………………ごめん、行くわ……。
事の成り行きをしばらく見守っていたけど、もう時間だ、と、心の中で、オルオとぺトラにさよならして、学校を後にした。
「…良かった、まだ来てない…。」
待ち合わせしてる、リヴァイさんの会社の最寄り駅まで来て、遅刻せずにいたことにホッとした。
実はこうやって、外で待ち合わせ、と言うのは、ないわけじゃないけど、あまりしたことがない。
と、言うのも、リヴァイさんのマンショとうちは同じ学区にあるため、どこかで待ち合わせ、よりも、リヴァイさんのマンションまで直接行くか、リヴァイさんがうちまで来るかの方が早く、着いたら、着いたよ、ってLineで送ってお互い家から出てくる、と言うことをしているので、こういうことって、わりと私たちの間では珍しかった。
だからなのか、いつもよりもどこかこう…そわそわとしながら、スマホを握り締めてリヴァイさんを待っていた。
「悪い、待ったか?」
それからしばらくして、軽く息を弾ませながら、リヴァイさんがやってきた。
「だ、大丈夫、です。お仕事、お疲れ様です。」
「あぁ…。」
ふぅ、と、ため息を吐きながら答えるリヴァイさん。
…………いつ見ても、男の人のスーツ姿って、ズルいと思う。
なん、て、言うか…、リヴァイさんは普段も十分にカッコいいと思うけど、スーツ姿はそれに拍車を掛けている、と言うか…。
学校の子たちにはない、何かがあるような気がしてならない…。
大丈夫ですか、と、うっすら滲んでいる汗を拭くためのハンカチを差し出しながらそんなことを思っていた。
「…今日なんだが、」
「はい?」
リヴァイさんの少し弾んでいた息も整い、じゃあどこ行こうか、ってなった時、リヴァイさんが申し訳なさそうな顔をしながら言った。
「すぐメシ食いに行っていいか?」
「え?…別に、いいです、けど…お腹空いてるんです、か?」
「あぁ。午前の会議が長引いて昼飯食いっぱぐれた。」
「…えっ!?」
お腹を抑えながら言うリヴァイさん。
…お昼食べ損ねた、って、今もう18時になるのに…!!
「い、行きましょう、行きましょう!何がいいですか?」
「食えりゃなんでも良い。」
「だ、ダメですよ!!お昼の分もちゃんと食べなきゃ!」
「…………じゃあ、」
…なんて言っても、私この駅周辺てあんまり詳しくない、し…。
どうしようどうしよう、と悩んでいたら、右手を顎あたりに寄せ、同じく悩んでいるような表情をしていたリヴァイさんがポツリ、と言った。
「和食なんてどうだ?この近くに会社の奴らが美味いと言っていた店がある。」
行くか?と聞かれ、他の場所を上げれるほど、この辺りに詳しくないから1回首を縦に動かした。
こっちだ、と、リヴァイさんは小さく呟き歩き出した。
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bkm