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ファーランからの返信が来るまで寝ていた俺のところに返信が着たのはそれから3時間後くらいだった。
だが、
『週明け論文の締め切りでそんな余裕ねぇんだけど。フィーナちゃん呼べば?』
その返信も、俺が望むようなものとは違っていた。
…呼びたくねぇからお前呼んだんじゃねぇか…。
『とりあえず今は多めに水分摂って寝とけ』
俺の思いに全く気づかず様子もなく、ファーランは一方的にメッセージのやり取りを終わらせた。
…くそっ!!
『熱が出た。仕事帰りに熱に効く奴何か持ってきてくれ』
ファーランが駄目なら、とハンジに連絡を取った。
…が、
「あのクソメガネ、既読すらしやがらねぇ…!」
現在午後9時。
仕事なんざよほど大ポカしない限りとっくに終わってるはずだし、あのクソメガネは規格外な行動する割にそういうミスは犯さない。
ならば考えられることは1つ。
あの野郎、俺がインフルエンザだと知っててスルーしてやがる…!
「…」
チラリと室内を見渡す。
今日はいい。
熱のせいか食欲すら湧かない。
だが水分は欲しいところだ。
ただの水よりポカリか何かが手に入るようなら手に入れたいし、何より明日の飯分も考えなければいけない。
「ハァ…」
熱を帯びた息を吐き出した後で、フィーナに電話した。
「はい?」
「…フィーナか?」
「はい。どうしました?」
フィーナの後ろから何か音楽が聞こえていた。
「悪い、今外か?」
「あ、いえ、自分の部屋で音楽聴いてただけですよ。」
何かあったのか?と聞いてくるフィーナ。
…あぁ、いつもと変わらない声を聞いたらまた熱が上がってきた気がする。
「…悪いんだが明日、」
「はい?」
「熱に効きそうな食い物とポカリかなんか買って持ってきてくれないか?」
「…熱、って、リヴァイさん、熱出たんですか!?え、今何度なんです!?大丈夫ですかっ!?」
フィーナは、まぁ…こうなるだろうよ、と言う予想通りの言葉を口にした。
「…インフルエンザになった。今39度だ。」
だから自力で買いに行けないから頼む、と最後まで言う前に、
「これから行きますっ!!」
珍しくフィーナが叫んでいた。
「…は?いや、お前今何時だと、」
「他に欲しいものはないですかっ!?」
「え?いや、他はないが、」
「わかりました、待っててくださいねっ!」
「おいっ、ちゃんと聞け!俺は明日っ、」
ツー ツー
一方的に切れた通話は、再び画面をタップしてもコールばかりで繋がることはなく…。
「…嘘だろ…」
現在午後10時に差し掛かろうとしている時間。
これからスーパーなりで買い物済ませて俺に食料届けて自宅に戻るとしても(この状態でこの狭い部屋に泊めることは考えられない)どう考えても門限10時の人間ができることじゃない。
何考えてんだアイツ…。
こんな時間から家出て何かあったらどうする?
迎えに行くか?
だがアイツがうちに来るまでに行きそうなスーパーは2つあるぞ。
しかもコンビニ入れりゃ5つはある。
「…あたまいてぇ…」
ただでさえ朦朧としてまともに考えが纏まらねぇってのに…。
キンコン
俺が頭を抱え始めた時、Line通知が室内に響いた。
見たらフィーナの母親からで、
『フィーナから聞きました。インフルエンザだそうですね。不出来な娘ですが、寝ずの看病に向かわせるのでゆっくり休んでくださいね。ちなみにマンションまでは私が車で送るから安心してね』
女子高生の母親として疑うレベルの内容のメッセージだった。
フィーナの父親が仕事中に事故って病院送りにされた一件以降、この人は俺の味方になってくれている。
…それはもう女子高生を持つ世間一般の母親から逸脱していると断言出来るほどに。
いや、今はもういっそおもしろがっているんだとわかるがな…。
『ありがとうございます。でも来させたらうつりますよ?』
『その時は私が看病するから大丈夫よ。あの子は学生で休み放題なんだからうつして楽になるならうつしていいのよ?』
「この人もほんと大概だよな…。」
『うつさないよう努めます』
『あらやだ。逆に気を遣わせちゃうかしら?そろそろフィーナがスーパーから出てくるはずだからもう少しで着くと思うけど、とにかく今はゆっくり休んでちょうだいね』
『そうします』
「…ハァ…」
結局こうなるんだと、ため息を吐きながらスマホを置いた。
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bkm