■5
「この前?この前とはいつだ?」
胸の前でギュッ、と両手を握りしめ、再び俯いた私にリヴァイさんはそう聞いてきた。
「…いっ、か、げつ、くらい前、の、土曜日、」
「1カ月前?…お前のLineが途絶えた辺りか。」
私の言葉に、呟くようにリヴァイさんは言った。
「どこで見た?」
「駅、の、…飲み屋街がある、」
「あぁ…。髪の長い女か?」
私の言葉に、思い当たるところがあったらしいリヴァイさん。
「…そ、です。」
「お前それをどの距離で見た?」
「え?距離?」
「アレは髪を下ろしたハンジだろうが。」
心底呆れたようにため息混じりにそう言ったリヴァイさんの顔を、思わず見つめた。
「…ハンジさん?」
「あぁ。ちょうど区切りがついて先が見えて来たから飲みに行くと言う話になって、いつの間にかモブリットが逃げやがって迷惑この上ない機嫌のクソメガネに無理矢理2件目つき合わされそうになっていた時だな。」
その時のことを思い出したらしいリヴァイさんは、すっごく嫌そうな顔をしながら言った。
「じゃあ、腕を組まれて嫌がらなかったのは、」
「嫌がらなかった?…どう見ても嫌がってただろうが。」
「そ、んな風には、」
「…見えなかったから、連絡して来なくなったのか?」
「…」
リヴァイさんの言葉に、再び俯いた私は、きゅっ、と唇を噛んだ。
「お前なぁ、」
「だったらっ、」
「なんだ?」
「リヴァイさんは、なんで連絡くれなかったんですかっ、」
私の言葉に、リヴァイさんはそれまでこちらを見遣っていた視線を逸した。
「リヴァイさん、自分から連絡してくれなかったじゃないですか…!」
「俺は忙しくなると言っただろう。」
「リヴァイさんは、」
「あ?」
「…リヴァイさんはっ、寂しく、なかったんです、か?」
思わずリヴァイさんの服をつまむように掴んだ。
「私はっ、寂しかった…」
「…」
「『仕事だ』って言われても、正直なところ、よくわかんないし、でもそう言われたら納得するしかないしっ、」
「……」
「でもっ、すごく、会いたかったし、寂しかっ」
そこまで言ったら、この2ヶ月間で溜まりに溜まったものが一気に噴き出したかのように、ボロボロと涙が零れた。
「…お前は本当に甘え下手だな。」
大きな大きなため息と共に、リヴァイさんが私を抱きしめた。
「そうなる前に、会いに来れば良かっただろう。」
「…でもっ、」
「しばらく時間を作れないとは言ったが、全く作れないとは言ってなかっただろう。」
「…」
「確かに1日中は無理だったろうが、短時間ならどうとでもなった。」
「…そ、んな、こと、言われて、も…。」
ぎゅっ、とリヴァイさんの胸元の服を握り締めた。
「1日中つきあってやることは出来なかっただろうが、一緒に茶くらい飲めた。」
「…」
「もしかしたら来るかもしれんと思っていたんだがな。」
連絡もしなくなりやがって、とリヴァイさんは続けた。
「リ、ヴァイ、さん、だって、くれなかったじゃないです、か、連絡…。」
「俺は元々マメに連絡するようなタイプじゃねぇだろ。」
「…」
「…いや、違うな。」
「え?」
「悪かった。次は俺からも連絡する。」
だからもう泣き止め、と、リヴァイさんは私の頭を撫でながら言ってきた。
「連絡、くれなかったくせに、」
「フィーナ、だから」
「連絡、くれなかったから、」
「あ?」
「今日、1日、こう、してて、くれない、なら、泣き止まない。」
こう、と言いながら、リヴァイさんの顔を見ないように鎖骨辺りに額をつけたまま、胸元の服をさらに強く握り締めた。
「あぁ…。今日はお前が望むことなんでもしてやるよ。」
少しだけ、嬉しそうにも取れるような…。
そんな声色でリヴァイさんは答えた。
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