■1
「昨日イアンと行ってきたんだー!」
それは何気なくリコちゃんに見せられた1枚のプリクラ。
イアンさんと楽しそうに笑って写ってるリコちゃん。
…の、下に、
「半年経ったんだ…?」
half year aniversaryと書かれていた。
「あー、それ?うん、まぁだいたいそのくらい、ってことで書いたんだよね。」
自分のプリクラをマジマジと見ながらリコちゃんは言った。
……そう言われると…。
「リヴァイさん、は、」
「あ?」
「記念日、覚えてます?」
リヴァイさんちでまったりと過ごす昼下がり。
昨日見た、リコちゃんのプリクラを思い出していた。
「記念日?何の?」
「私たちの、ですよ。覚えてます?」
つきあって半年記念でプリクラを撮ったリコちゃんとイアンさん。
でも…。
「…4月29日か?」
私たちのつきあった記念日って、いつなんだろう…?
「本番、頑張ってね。」
「はい!」
季節は冬から春に移り変わろうとしている頃。
私は相変わらずリコちゃんのお兄さんから家庭教師をしてもらっていた。
…と、同時に…。
「あ、Line着た。『頑張れ』の一言だけって先生らしい…。」
−俺はお前に嫌われたいわけじゃない。だから今はこれ以上は何もしない。この続きはお前が卒業してからだ。今は勉強を頑張れ−
結局あの後、リヴァイさんは有言実行とでも言うのか…、何かをすることもなく…。
極々普通の家庭教師と生徒、と言うような、当たり障りない関係を続け、クリスマス、年末年始も特に何かをするわけでもなく(ちなみにこの当時はリヴァイさんの誕生日を知らなかった)
お互いに空いてる日、都合がつく日は勉強を見てもらうと言う日々を過ごしていた。
…いたのはもしかしたら私だけなのかもしれなかったと言う事実はあとになって気づくわけだけど、少なくともこの当時はただの家庭教師と生徒として私は過ごしていた。
そして受験当日。
「な、なんか、緊張するね…。」
「そ?」
「だ、って、なんか、みんな、頭良さそうに見える…。」
キンコン
「フィーナ、スマホ切っとかなきゃだろ?」
「あ、う、うん…。」
「てゆうか今のLine?誰から?」
「え?あ、…先生からだ…。」
「先生?って、あのチビのこと?」
「う、ん…。『俺が教えてやったんだ。お前が落ちるならみんな落ちる。安心してテストしてこい』だって。」
「…えっらそーに!」
試験会場でリコちゃんと別れる直前に着たリヴァイさんからのメッセージに、リコちゃんが嫌そうな顔したのを今でも覚えている。
「でもほんっと、フィーナは恵まれた環境だったと思うよ?」
「え?」
「兄さんに家庭教師頼んで、兄さんがダメな時はすぐにあのチビに聞けたし?」
アイツもなんだかんだで頭良いから、とリコちゃんは言った。
…リコちゃんからも軽いプレッシャーをかけられ、手をすでに汗ばませながら、試験に挑んだことはなかなか忘れられない。
「どうだった?」
その日の夕方、リヴァイさんから電話が着た。
先生から電話とか珍しいなぁ、と思いつつもそれだけ心配してくれてたのかな?って、ちょっと嬉しくなった。
「は、はい。なんとか、全部解けた、と、思い、ます。」
「そうか。」
「あ!先生がこの前言ってた二次方程式の問題、そのまま出たんですよ!あれは絶対大丈夫です!」
「…へぇ?」
その日は特に何かを話した、って記憶はあまりない。
ただ…、
「確か卒業式の後、合格発表だよな?」
「はい!」
リヴァイさんが念を押すように、合格発表の日を確認してきたのは覚えている。
「はっやいなぁ…、もう3年経ったとか信じられない!」
「そうだね…。卒業、って思うとちょっと寂しい…。」
「フィーナとはお互い合格してたら高校も一緒だけどね。」
「合格発表明日かぁ…。大丈夫かなぁ…?」
「大丈夫、大丈夫!落ちたりしないって!」
卒業式は涙で飾るというよりも、受験合否の不安で飾られた。
それをリコちゃんは豪快に笑って一蹴した。
…そりゃあ、お医者さんの家系で、リコちゃん自身今からお医者さんになりたい、って言ってるくらいだし、リコちゃんは大丈夫かもしれないけどさ…。
なんて考えながら、卒業式に出席していた。
その日は特にリヴァイさんからは何も連絡はなかったと思う。
そして…。
「フィーナ!あった!?」
「え、えぇ、っと…、」
「何番!?382、382。…376、379、380、382、あった382!!」
とっくに自分の受験番号を発見したリコちゃんと、なかなか自分の番号を見つけられない私。
それに業を煮やし、私の番号を探し出したリコちゃんに合格を告げられた。
「良かった!リコちゃんと同じ高校!」
「春から楽しみだな!」
きゃっきゃきゃっきゃとリコちゃんと合格の喜びを噛みしめた。
「『無事合格しました!』と…。」
まず誰に?と思った時、無難にパパとママにLineで連絡した。
同じような内容で、ずっと家庭教師の先生として見てくれてたリコちゃんのお兄さんにも連絡をした。
その後で、一文書いては消してを少しだけ繰り返し、
「…よし!」
すーっと、大きく息を吸って、送信ボタンをタップした。
「お?リコから電話着た…どうだったー?…うん、うん、そっか!2人とも受かったか!良かったな、おめでとう。…おー、じゃあ後でな。…だとよ。」
「当然だ。クソメガネは知らんが、フィーナは俺が教えてやったんだ。」
「お前『も』だろうが!…ったく、お前ら結局、ん?Line着てる…あ、」
「あ?」
「フィーナちゃんからの合格連絡着てたんだけど。」
「…あ?」
「『無事高校合格しました。お兄さん、今までありがとうございました』って。」
「………」
「やー、やっぱりあの子真面目で良い子だよなぁ…。」
「………」
「礼儀正しいし?」
「(ん?Line着た…)」
「あぁいう子にはこう…」
「(『先生、無事合格しました…!周りのみんなが勉強が出来るように見えて、すごく緊張していたんですが、先生が朝一でメッセージくれたおかげで頑張れました。今度改めてお礼させてください』)」
「真面目な好青年、て感じのさぁ、」
「ファーラン。」
「うん?」
「用が出来た。帰る。」
「は?え?うん、まぁ…、またな?」
「じゃあな。」
「あ、ママからメモ残ってる…『今日は合格パーティです☆腕振るっちゃうから楽しみにしててね!』って…」
高校から貰った書類を抱え家に着いたらママは既に夕飯の買い出しに出かけていた。
その時、
「…も、もしもし?」
電話が鳴り響き、
「フィーナか?」
リヴァイさんの声が耳元い響いた。
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