■黒猫からの挑戦状
「蘭は蘭です」
「は?」
「園子は園子です」
「…そーだな」
「じゃあ私は?」
喉の痛みの和らぎとともに、俺の声もだいぶ安定してきた。
たまに耳にする自分の声がいかにも男ー!って感じの声で少しだけくすぐったいような、なんともいえない日々。
そんな日々を過ごしていたら、芳賀がまたオカシナことを聞いてくる。
いや、コイツがまともなことを聞いてきたことあったか?って話だな。
「芳賀は芳賀だろ」
「ちーがーうー!!」
うーわ、今すっげぇわかりやすく地団駄踏んだぞコイツ。
俺こんなにわかりやすく地団駄踏む人間初めて見た…。
「蘭は蘭です」
「おー」
「園子は園子です」
「だな」
「じゃあ私は?」
「だからオメーはオメーだろ?」
「工藤くん探偵になるんでしょ!?もっと頭使って推理してっ!」
「あのなぁ、俺は凶悪事件を推理する探偵になるんであって、オメーのくっだらねぇなぞなぞ推理する探偵になるわけじゃねぇんだよっ!」
コイツ今舌打ちしやがったっ!!
なんなんだよ一体!!
「オメーおかしいぞ?…いや、元からおかしかったけどさらに輪をかけておかしいぞ」
「…今さりげなくバカにしたでしょ!?」
「お、気づいたか?バカにされて気づくってことは、自覚あるバカってことじゃねーか。良かったなまだ救いようのあるバカで」
「…工藤くんは迷宮だらけの迷探偵だよっ!」
「…なんの話だ」
「いひゃいいひゃい」
だいたいオメーが思いつくような謎々にかまってるほど俺はすっ呆けた探偵になるつもりはねーんだよっ!!
「蘭は蘭」
「あん?」
「園子は園子」
「…はあ?」
「じゃあ芳賀は?」
とは言っても解けねぇのは癪に障る。
この上なく不愉快だ。
「毛利さんがなんだって?」
「だからぁ、蘭は蘭、園子は園子、じゃあ芳賀は?」
「…なんだソレ?新手の謎々か?」
まぁ、そう思うよな…。
「毛利さんは毛利さん、鈴木は鈴木、なら芳賀さんは芳賀さんじゃね?」
「違うんだとよ」
「はあ?」
やっぱそれしか浮かばねぇよなぁ?
「意味わかんねぇんだけど、なんだソレ?」
「芳賀が聞いてきたんだよ!つーか最近ソレしか言わねー」
「芳賀さんが?うーん…」
「…それどう聞いてきてんの?芳賀さん」
「だからー!蘭は蘭、園子は園子、じゃあ私は?ってだけなんだよ!」
そんなんでわかるわけがねぇ!
「…お前マジでそれわかんねぇの?」
「は?」
「え?お前わかった!?」
「つーか、簡単じゃん。蘭は蘭、園子は園子、あおいはあおい、だろ」
「はあ?だから芳賀は芳賀だろ?」
「わっかんねーかなぁ!お前探偵になりてぇとか言ってんならこれくらいわかってやれよ!」
「…何が?」
「だーかーら!名前で呼んでほしーってことだろ!」
…。
「あーーー!!!そうか、そうか!工藤、毛利さんのことも鈴木のことも名前で呼んでるもんな!」
「だろ?だから自分もあおいって呼んでってことじゃねーの?」
「まーじーで!あおいちゃん可愛いことするな、工藤っ!!」
そう言って俺の背中をバシッと豪快に叩いてきた。
名前で呼んでほしい?
いやいやいやいやいやいやいやいや
「アイツに限ってそれはない!」
「ばーか!お前わかってやれって、乙女心ってヤツをっ!!」
「いやマジでない!!」
あったらむしろ引く!
「またまたムキになっちゃってー!工藤くんもかっわいーんだから!」
「…蹴り飛ばすぞテメー」
「すみませんでした…」
こういう時、声が低くなって良かったと思う。
同じ台詞1つ取っても迫力が出るからだ。
それよりも、だ。
−名前で呼んでほしーってことだろ−
この後しばらく俺はこの言葉の真意を探すための脳内旅行に出た。
.
bkm