■体の成長
「…え?何?」
「じゃから声変わりなんじゃないかと言っとるんじゃ」
いつまで経っても喉の痛みは消えず。
風邪かと思ってたけど、その割には喉しか痛くなくて。
なんか変な病気じゃねーかと思ってたら、博士にそう言われた。
声変わり、ねぇ…。
そーいやクラスのヤツらもそういうの増えて来たよな…。
−お腹痛くて貧血−
まぁ…、俺だって成長するってことだ。
「えっ!?声変わりっ!?」
「って、博士に言われた」
「なんでっ!?」
「…なんでって何が?」
「みなみボイスはどこにいくのっ!?」
「なんだそのみなみボイスって?」
「ヤダっ!そんな可愛くない声で犯人はお前だ!なんて言われたくないっ!」
「だからなんの話してんだって聞いてんだろーがっ!」
「いひゃいいひゃいいひゃい!」
なんだよ、みなみボイスって!
「何回かこういうのを繰り返して声が変わるんだと」
「えー」
「…なんだそのえーってのは」
「絶対今までの声の方がいいよ!」
「…」
「でも変声期って、ある日突然、なんだね!なんかもっとわかりやすいのかと思った!」
「わかりやすいって?」
「ほら、遊園地とかの身長制限みたいに、これ以上高くならないと変声期来ません、みたいな?」
「…」
「…じ、冗談だよっ!」
「…」
「痛い痛い痛い痛い!!」
コイツも「女」なんだって思ってから、チョップはしなくなった。
しなくなったけど、どーしても!!
このバカさ加減は頬を引っ張るだけじゃ気が済まず、きっとそんなに痛くないはずのコメカミ攻撃をするようにしている。
それにしても失礼な女だ!
「とにかく!俺のコレは病気とかじゃねーから」
でも、早くなんとかなんねーかな。
コイツに対して説教してても声が嗄れて、全く迫力がないような気がする。
それがすっげぇ腑に落ちねぇ。
「何にやにやしてんだよ気持ち悪ぃなぁ」
なんてことを考えてたら、芳賀がやたらとにやにやしてた。
…この顔は知ってる。
壊れる前兆。
いや、タダでさえ壊れかけてんだけど、完全にネジが飛ぶ前兆。
「早く声変わりするといいね!」
それだけ言うとまたにやにや。
間違いない。
断言できるけど、コイツぜってぇろくなこと考えてない。
「オメー、マジで頭やられたんじゃねーか?」
「やだな!工藤くんの成長が嬉しいんだよっ!」
飛んだな、ネジが。
コイツの壊れポイントがわかんねぇから、どうもできねぇんだよな…。
へへへとか笑ってただの危ねぇやつじゃねぇかよ!
ぜってぇろくなこと考えてないに違いない!
「オメー、今の季節知ってっか?」
「夏?秋?夏と秋の中間でまだ夏寄り?」
「…なんでまだ暑い時にスープなんだよ。しかも生姜入り!」
「ただの生姜スープじゃないよ!レンコンの生姜スープ!喉に優しいっ!」
「…喉に?」
「そう!声変わりって、喉痛いんじゃないかと思って調べたらレンコンが喉に良いって!スープだと栄養価も高いからオススメってあったからスープにしたの!」
「へー…。じゃあ生姜は?」
「体が温まるからオススメって!」
「…」
「…」
「…今の季節は?」
「夏寄りの秋?」
「体温める必要ねーだろーがっ!」
どうせ作るならもっと考えてから作れよっ!
でもまぁ…
「さんきゅ」
俺に気遣ったってことだろ?
悪い気は、しねぇし。
…しねぇんだけど、
「何人分作ったんだよ」
「わかんない!レンコン全部使ったらすごい量になったけど、せっかくだから全部飲んでね!」
「ふざけんじゃねーっ!どんだけ水っ腹にさせる気だっ!!」
コイツはやっぱりろくなこと考えないし、ろくなことしねぇっ!!
でも「せっかく作ったのに…」なんて言われたら飲まねぇわけにはいかねぇし!
結局この日の夕飯は「主食・スープ」「副食・スープ」「デザート・スープ」な勢いだった。
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bkm