■幸運を呼ぶ黒猫
「聞いたわよ!博士から!」
「あん?」
「新ちゃんガールフレンドできたんですって!?」
ハワイについて、あー飛行機かったるかったとか思ってたら母さんがにやっにやして近寄ってきた。
何かと思えば…。
「んなヤツいねぇし」
「またまたー!ちっちゃくって可愛い子だったって博士言ってたわよ!」
「ぜひ我々も見たいものだと、一旦そっちに行こうかと思ったんだがなかなか仕事のキリがつかなくてね」
来んじゃねーよ。
とは、金出してもらってる手前言えねぇ…。
「ほんとにそんなんじゃねーって!」
「あら、でも毎日一緒にお夕飯食べてるんでしょ?あおいちゃんと!」
…ベラッベラ喋りやがってっ!!
「新ちゃんの食生活は私も本当に心配だったから、助かるわぁ!今度日本に帰ったらあおいちゃんとあおいちゃんのご両親にお礼しに行かないとね!」
「…いねぇよ」
「え?」
「聞いてねぇのかよ、博士から」
「何を?」
「…アイツ、4年前に親事故で亡くして、今はほら、父さんが前に使ってたエトワールバレーで1人暮らししてる」
そうなんだよなぁ、と。
こっち来る前の蘭の話じゃねぇけど、アイツ今も1人でメシ食ってんのかなぁとか。
父さんと母さんがなんか言ってたけど、耳を掠めただけで、俺はと言えば、海の向こうの小さな島国を思ってた。
「ヘイ、ボーイ!ハワイのお土産にどうだい?」
ブラブラと歩いていると露店の兄ちゃん、って言っても高校生くらいか?
ソイツから声をかけられた。
…別にいらねぇ。
「ちょっとくらい見て行ってよ!」
そう言われて興味ねぇけど、チラッと商品に目を向ける。
そしたら、隅にひっそりと黒猫が置いてあるのに気づく。
思わず立ち止まってしまった。
「うん?何か気に入ったものでもあったかな?」
「…」
ソイツは目も黒く、まるでアイツそのもの。
うっかり手に取ったら、手作りらしいのがわかった。
「あ、ソレ!俺の妹の手作りなんだよね!気に入った?」
「…なんで黒猫?」
「黒猫は昔から魔女の使い魔。妖しい力を持った奇跡の猫だからさ!」
奇跡ねぇ…。
妖しいってか、アイツの場合むしろ怪しいけどな…。
「黒猫は主にのみ従うっていう気難しさがあるけど、手なづけられたのなら、素晴らしい幸運をつれてくると言われてる」
いやー…。
手なづけてもアイツは苦労しかつれて来ねぇだろ…。
「買わない?ソレ。妹の自信作!今なら安くしとくよ!」
別に必要ねぇし…。
−食べてなくならないもの、だよ?−
…でもまぁ、買ってやってもいーかな、とか。
アイツっぽいし、とか?
そんなこと思ってたら、気がついたら金払ってた。
「ボーイ、これガールフレンドにあげるんだろ?」
「…別にそんなんじゃねぇ」
「でも気になる女の子にやる。違うか?」
「…」
「当たりだな?…じゃあボーイの恋がうまくいくように特別にリボンをつけてやろう」
「別に恋してねぇからそのまま寄越せ」
「俺の妹作のこの可愛いストラップに彼女もきっとボーイを好きになる!」
「その必要もねぇからさっさとソレ寄越せ」
うまく渡す方法なんてーのも、誰も聞いてねぇのにベラベラ喋ってきた。
…もう2度とコイツから物を買うか!
ポケットに納めた袋がカサカサ音をたてる。
−仲直りにはプレゼントだよ!−
別にそんなんじゃねーけど。
買ったからにはまぁ…渡しに行くけどな。
カサカサと自己主張するそれが余計、日本のアイツを思い出させた。
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bkm