キミのおこした奇跡side S


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夏休み、後半


気がかりなこと


「でもあのナポリタンはねーよなぁ…」
「あれはマジですごかった。今年の合宿の1番の思い出だな」
「それもこれも工藤が無理矢理彼女を」
「俺は被害者だっ!!」


合宿最終日。
無事合宿も終わり家に帰るかーってチームメートと話しているとき。
やっぱりここでも俺は加害者になっていた。


「いやでも、裸見せたって話だろ?」
「だから見せたんじゃなくて見られたんだっ!事実を歪曲して話すんじゃねーよっ!」
「どう違うんだよ」
「全然違うだろ!?俺が見せたんじゃなく、風呂に入ろうとしてる俺のところにアイツが乗り込んできて挙句っ!!」
「…挙句なんだよ?」
「あ、挙句アイツは!」
「うん、アイツは?」
「そ、粗末なもの見せるなって言いやがったんだっ!!」
「「「…」」」


俺は粗末なんかじゃっ!!


「…なんつーか、意外とお前も苦労してんだな」
「へ?」
「俺達が責任持ってその噂を消してやるよ」
「…はあ?」


よくわかんねぇけど、これで「俺が無理矢理襲った」って噂は消してもらえるらしい。
それは何よりだ。
合宿も終わって、変わらない夏休みの日常が流れる。
メシ食って、部活行って、帰ってきて課題やって、メシ食って寝る。
蘭や博士と会ったり、チームメートと遊びに行ったりとなんだかんだで夏休み前半はバタバタしていた。


「…仲直りしないの?」


明日からハワイ!って時に、電話で蘭に呼び出された。
土産の催促かと思ったら全然違った。


「しねーもなにも、アイツが悪ぃんだし」
「でもね、新一」
「ウルセェなぁ、そんなこと言うためにわざわざ呼んだのかよ?」
「だって…。新一知ってるんでしょ?あおいのお家のこと」
「…」


人の噂に戸は立てられない。
黙っていても噂ってのは広まるもんだ。
芳賀の家庭環境のことも、例外じゃなく。
どっから漏れたのか、夏休み前にはみんなが噂するようになっていた。
…本人に確認するようなバカはいなかったみてぇだけどな。


「あおい、私が聞いても大丈夫しか言わないけど、毎日1人でご飯食べてるんじゃないかなぁって…」


蘭の言い分はわかる。
蘭や博士が交互に気にかけてくれる俺と違って、アイツは本当に1人だ。
なんでか流れでこっちに来てからずっと俺が一緒にメシ食ってたけど。
…俺と一緒に食わなくなってから、アイツずっと1人でメシ食ってんのかな…。
結構、寂しがりやなんだよなぁ、アイツ…。


「蘭」
「うん?」
「アイツ料理ぜんっぜんダメなんだ」
「ん?うん」
「どーせコンビニ弁当な毎日だと思うんだけど」
「…そんなことないと思うよ?」
「あるんだよ!バカだしマヌケだし、ほんっと1人じゃなんもできねぇ」
「…新一もっと言い方あるでしょ」
「蘭」
「なに?」
「俺、2週間こっちいねぇんだけど、」
「ああ、うん。知ってるよ?」
「…少し、気にかけてやってくんねぇか、アイツのこと」
「…」
「まぁ殺しても死なねぇしぶとさがあるから大丈夫だろーけど?オメーも時間あったら、さ」
「…うん!わかった!」
「悪ぃな」


これから2週間。
てことは3週間以上、1人であの部屋で生活すんのか…。
俺は悪いわけじゃねーけど。
でもなんか、な…。


「新一」
「あん?」
「仲直りにはプレゼントだよ!」
「…はあ?」
「あおいも新一からのプレゼントなら喜ぶと思うけど?」


なーにが仲直りにはプレゼントだ。
俺が悪いわけじゃねーのに、なんだって俺が。


「私もお土産楽しみにしてるから!」
「どーせ、マカダミアナッツだぜ?」
「…私はそれでもいいけど、あおいにはそれじゃダメだからね」
「え?」
「食べてなくならないもの、だよ?」


食べてなくならないもの、ねぇ…。


「まぁ…、なんかあったら、な…」
「見つかるといいね、何か」


別に見つからなくてもいーけど。
蘭と別れて、なんだかんだして気がついたら出発日当日。
飛行機乗る直前にケータイを見る。
あれだけ喧しく鳴ってたケータイが、もうずっと静かだ。


「ご搭乗のお客様に」


アナウンスの声を最後に、ケータイをオフにした。

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bkm

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