キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

夏休み、後半


雨降ってまたため息


「あれ?母さんは?」
「ああ、女性特有の悩みで寝ているよ」
「はあ?」
「生理痛で腹が痛くて貧血気味らしい」
「へぇ…」


女も楽じゃねーんだな、なんて。
そんなことを思った夏の終わり。


「じゃあ新ちゃん!空港まで行けないけど気をつけてね!」
「おー」
「今度は噂のあおいちゃんに会わせてね!」


なんだ噂って?
ほんとに少し青い顔してる母さん。
年齢とともに落ち着いていたはずの生理痛が先月くらいから悪化したって騒いでた。
…俺に言われても困んだけど。


「まぁ、本を読むこともいいが、外に出ていろんな経験を積むことも大事だからな」
「へーへー。わーってるよ!じゃあな!」


父さんに空港まで送ってもらった後、1人日本に向けて飛行機に乗る。
…あっち着くのは昼過ぎ。
米花町に着くのは4時、ってところか。
すげぇ疲れてるわけでもねぇし?
まぁ…土産届けに行ってやっか。


ピンポーン


少し。
ほんとに少しだけ、緊張してる自分がいた。
ポケットの中の袋を触るとカサカサと音がした。


「はいはいはーい!今開けまーす!…はい、って工藤くん、どうしたの?」


俺このドアが開くまで結構、なんて言うか考えてたけど、すっげぇナチュラルにどうしたのか聞かれた。


「どーした、っていうかオメー確認してからドア開けろよな」
「ああ、うん、気をつける。で?何かあった?」
「何か、っつーか、」
「うん?」


何かあった?なんて、ごくごく普通に聞かれて、いろいろ考えてた自分がアホらしくなった。
でもそれがすげぇ、コイツらしいと思ったんだけど。


「ハワイ行って来たんだけど、」
「…自慢ならお帰りください」
「そーじゃなくて!」
「何?」


別に変に取り繕う必要もねーっていうか。
まぁ…そういうヤツだし。


「コレッ」
「うん?」
「土産!渡しに来たんだけど!いらねぇなら捨てればいーし!」


芳賀はその場で袋を開け始めて、それがなんとも言えず居たたまれなく。
なんとなく、そこから目を逸らした。


「工藤くんハワイに行ったんだよね?」
「そーだけど?」
「…マカダミアナッツは?」
「いらねぇなら捨てろ!」
「いや、くれるって物は貰うけど…コレ、ハワイ?」


それは俺も思った。
ハワイ関係ねーじゃねぇかって。
でも仕方ねーだろ!
それ見たらオメー思い出しちまったんだから!
なんて、言えるわけがない。


「かっ、母さんが選んだんだよっ!」
「え?お母さん?」
「いらねぇなら捨てろ!」
「…ありがたくもらっておきます」


ホッと、無意識に安堵の息を漏らしていた。


「あ、工藤くん夕飯は?」
「え?いや、まだ、だけど」
「良かったー!じゃあ食べてって!ちょっと張り切って作り過ぎちゃったんだ!」


つーか、さ。
さっきも思ったけど、俺コイツと喧嘩してたんじゃねーのか?
アレ俺の認識違いか?
まぁ、俺がわざわざ土産持ってきてやったんだし?
今だ不機嫌でいられても困んだけど。


「なんか工藤くんがうち来るの久しぶりだね!」
「あー…まぁな…」
「何してたー?」
「…つーかさっきも思ったけど、オメーもう気にしてねぇのか?」
「えー?………あ、喧嘩してたんだっけ、私たち」


…フツー忘れるか?
コイツの脳内どうなってんのかほんとに知りてぇ。


「ぶっ」
「は?何噴き出してんだよ?」
「な、なんでもなっ」
「はあ?」
「あはははははは!!」
「…ついに壊れたか」


よくわかんねぇけど。
いや、よくわかんねぇのはいつものことだけど。
芳賀が大爆笑しだした。
しばらく会わないうちにマジで壊れたんじゃねーか、コイツ…。


「気済んだか?」
「うん!久しぶりに大爆笑した!ありがと!」
「…おー」


涙流すほど大笑いして、気が済んだらしい。
今の笑いポイントがどこだったのかさっぱりだ。


「まぁさ、」
「うん?」
「私も工藤くんの粗末なも」
「粗末って言うんじゃねーって言っただろーが!」
「…工藤くんのスバラシイものを」
「そこから離れろ、オメー!」
「…工藤くんを見てしまったのは忘れるから、工藤くんも忘れて」


なんだその日本語!
つーか、忘れるからってオメー


「あんなクソ不味いナポリタン作りやがって良く言うぜ」
「あ、でもあれ工藤くん全部食べたって聞いた。辛いの好きだったの?」


ああ、コイツはこういうヤツだった。
俺がどんだけ汗流して無理矢理食ってやったと思ってんだ!
辛いのが好き?
アレは辛いの範疇から飛び越えてんじゃねーかよっ!!
ああ、でもすげぇコイツらしい。
2〜3週間じゃ人は変わるわけがねぇしな…。


「昔のことをいつまでも気にしてたらハゲるよ?」
「ハゲねーよっ!」
「いや〜、わっかんないよ?男の人は大人になったら変わるって言うし!」
「俺はハゲねーって言ってんだろっ!」
「えー?ムキになるあたりすでに怪しいひゃいいひゃいいひゃい」
「あいっかわらず伸びるな、オメー」
「いひゃいよっ!!」


ほんっと!
2〜3週間じゃ人は変わらない。
相変わらずよく伸びる頬だ。


「ほら、メシ作り過ぎたんだろ?食ってやるからさっさと用意しろ」
「…そんな態度だとまたタバスコ入れるよ?」
「その時はオメーの口にねじ込んでやるよ」


誰も食べなかったナポリタン食ってやったんだ。
また性懲りもなく激辛料理出してきたら口にねじ込んでも罰は当たんねぇはずだ。


「おい」
「はい?」
「…オメー何のパーティする気だったんだ?」
「え?パーティ?しないよ?」
「…じゃあなんだこの量」
「だからちょっと作り過ぎたって言ってるじゃない!」
「ちょっとって量じゃねーだろ!?何枚あんだよ、このチヂミ!!」
「えー?何枚だろ?…9枚?」
「誰が食うんだよっ!」
「工藤くん」
「ふざけんじゃねーっ!腹千切れるだろーがっ!!なんでこんなに作ったんだよっ!!」
「…だって、」
「なんだよ?」
「ボールに小麦粉入れようとしたら、手滑って袋に入ってたヤツ全部入っちゃたんだもん…」
「…だもん、じゃねーーっ!!いいか!オメー自分でも責任持って4枚は食えよ!?」
「そんなの無理に決まってるじゃん!」
「俺だけに食わせようとすんじゃねーよっ!!」


2〜3週間じゃ人は変わらない。
でももう少し「成長」ってものをしててもいいんじゃねーか!?
またいつもの「日常」が戻ってきた気がしてため息が出た。

.

prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -