キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

ホビットカップル誕生


黒猫からの献上物


「え!?彼女!?」
「そー、コイツ転校生とちゃっかりつきあってんですよ」
「違うって言ってんだろ!」


クラスメートに冷やかされたと思ったら、今度は部活でも冷やかされた。
どいつもこいつもなんなんだ!


「って、ことだから麻美先輩もそろそろコイツ諦め」
「わ、私は別にそんなんじゃっ!!」
「つーかオメーくだらねぇこと言ってねぇで早く着替えろよ、練習始まるぞ」
「工藤くん…」


その後も暇さえあれば転校生転校生って言われた。
…ウルセェ。


ピリリリリ


部活後着替えてる最中にケータイが鳴る。
ディスプレイを見たら芳賀あおいって出てた。
チラッと見ても、誰も気にしていないようだった。
ならここでいーか。


「なんの用だ?」
「…もっと爽やかに出てください」
「用がねーなら切るぞ」
「ちょっと待ってよ!」


何が爽やかに出ろだ。
誰のせいでこんなにイライラさせられてると思ってやがる!


「なんだよ?」
「レモンパイ!作ったから持って行こうかと」
「…オメーまさか1人で作ったんじゃ」
「違うよ!さっき家庭科部で作ったの!」
「へー。今日もう作ったのか」
「そうそう。工藤くん作ったら持ってこいって言ったから電話したの」
「あー…、じゃあこれから着替えるから正門前で待ってろ」
「正門前ね?わかった」


ピッと電話を切ってカバンにケータイを投げた。


「だ〜れと待ち合わせ?工藤くん!」
「…関係ねーだろ」
「お、噂の彼女!?後ついてったらどんな子か見れる!?」
「…先輩、俺彼女いねーっすよ」
「またまたー!正門前で待ってろとか彼女以外で誰に使う!?」


キリねぇな…。


「じゃ、俺帰ります」
「あ!工藤くん、レモンパイ!」
「あー…、今日はいーっす。スミマセン」
「…そっか」


いつまでも同じことしか言わねぇチームメートから離れ、正門前に向かった。


「芳賀?」
「あ、工藤くん、早かったね」
「…園子がいんなら俺帰るし」
「やーだ!私は邪魔しないわよ!まぁ2人で楽しんで!」
「…オメーその顔キモいぞ」
「あんたまで失礼ね!!ほら!さっさと帰んな!」


これで明日も噂で持ちきりだな。
あの機関銃覚えてろよ…。


「で?レモンパイって?」
「あ、これこれ!」
「…わざわざラッピングしなくてもいーだろ」
「いやなんか今運動部でレモンパイが流行ってて、みんな運動部の人にやるから私も人にあげるって言ったらラッピングを薦められたよ?」
「ふぅん…。良かったなぁ、ここまでラッピングしてんのに、家で1人虚しく食べることにならないで」
「別にそれはそれでいいし」


ラッピング越しの匂いはフツー。
オカシナものが混入してる感じはない。


「あー、じゃあコレ一緒に食うか?」
「うん?」
「俺んちの冷蔵庫いい加減食わねぇとやべぇ食材あるし、ついでにメシ食ってけば?」
「…そのメシは誰が作るんでしょうか?」
「オメー家庭科部なんだろ?」
「…」
「まぁオメーの好きだけどな」


俺の推理からすると、コイツはけっこー寂しがり屋。
普段そんな感じはしねーけど、言葉の端々でそう感じる。


「親子丼リベンジする?」
「ヤメロ」
「…何食べるんですかね?」
「レモンパイに合う夕飯」
「はあ?どんな夕飯よ、それ!」
「俺は知らねぇよ。オメーが考えろよ」
「…工藤くんが食べるんでしょ?工藤くんが考えればいいじゃん!」
「俺は食う専門。出されたものに文句言わねぇし」


とりあえず出されたモン全部食ってやってんだから感謝されてもいいと思うけどな。


「ま、親子丼と言わずに、オメーが1番自信のあるヤツにしろ」
「…作ってもらうくせになんでそんなに偉そうなの?」
「失敗作を食べてやるからだ」
「失敗なんかしないしっ!」


どっからそんな自信が出てくんだよ。


「じゃあ失敗したら明日から1週間朝晩俺の荷物持ちな」
「はあ!?なんで荷物持ち!?ガキじゃあるまいし!」
「失敗すんのが怖ぇんだろ?」
「しないから!」
「じゃあいいじゃねーか」
「…いいよっ!その代わり美味しく出来たら工藤くんが荷物持ちだからね!!」
「出来ねぇから安心しろ」


家庭科部に入っただけでいきなり「美味しい料理」が出来るようになったら料理下手なんかこの世にいねーよ。


「へー。なかなか美味そうな見た目じゃねぇか」
「でしょ!初レモンパイなのにこの出来!私天才!!」
「…」
「…そのバカを見るような目止めてくれないかな?」
「ああ、悪ぃ、バカを見るようなじゃなく、バカだと思って見てた」


どっからその自信が沸くのかほんと不思議だ。


「…」


一口。
たった一口だ。
でも口に含んだモノを噴き出さなかった自分に自分で褒め称えたい。


「美味しい?」


どの口がそんな台詞吐くんだこのバカ女!


「テメー口開けろ」
「え?」
「その口開けろ」
「え?何?」
「オメーがこれ食ってみろっ!!」
「ちょ、むがっ!げほっ!酸っぱい!何コレ!!」
「どこがレモンパイだよ!!この酸っぱさただのレモンじゃねーかっ!!!」
「…おかしい、言われた通りにしたのに…」
「おかしいのはオメーの頭だっ!何をどうやったらここまで酸っぱいレモンパイを堂々と人に食わせられるんだっ!!オメーもう夕飯も作んなっ!週末試合があっから腹壊すわけにはいかねーんだよっ!」
「…やだな、フツーよりはちょっと酸っぱいけど、おなかは壊さないって!」
「ちょっとじゃねーじゃねぇか!!そういうことは自分で全部食ってから言えっ!!!」


結局、そのレモンパイですら全部食べてやった俺は、ほんとーにイイヤツだと自分で思った。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -