■必然の邂逅
気配はするのに、近づいてくるような感じはしねぇ…。
さっきの血といい、手負いで逃げてきた、ってところか。
…捕まえんなら今だ。
「新一?」
その時、蘭の声が聞こえた。
あのバカ、追っかけてきたのかよ!
しかもあおいまでっ!!
「逃げろあおい!蘭!!そいつは例の通り魔だ!!」
「恨むんならこういう結末を用意していた神様ってやつを恨むんだな」
一瞬の出来事。
俺が階下のあおいたちのところに飛び降りようとするより早く、通り魔が寄りかかっていた柵が外れ、大きくその体を空中に投げ出した。
「あおい!!」
普段なら蘭の方が早かっただろう。
でも、捻挫してることもあって、先に飛び出したのはあおい。
でも誰がどう見ても通り魔より遙かに小さく軽いあおいは体の半分以上が引っ張られ柵の外に出ていた。
あのバカッ!!!
「早く私の腕に捕まってっ!!雨で手がっ!!」
「くそ、世話のやけるヤローだぜ!」
あおいが掴んでる手とは反対側の手を掴む。
その直後、通り魔は俺たちの腕を掴むことなく、驚異的な腕力で這い上がってきた。
…まだこんだけ体力あんなら死なねぇな、きっと。
「なぜだ?どうして俺を助けた!?」
あおいと蘭を庇うように前に出る。
チラッと見えた蘭の顔色が悪い気がした。
「わけなんているのかよ?人が人を殺す動機なんて知ったこっちゃねぇが、人が人を助ける理由に論理的な思考は存在しねぇだろ?」
「…蘭?蘭!!」
音がしたと思い振り返ると蘭が倒れてた。
風邪がぶり返したんだとすぐに気づいて、抱き上げた。
そんな俺に通り魔は銃を向ける。
「止めときな。手負いってことは追っ手が近くにうろついてるってこと。サイレンサーもなしに銃をぶっ放せばすっ飛んでくるぜ?かといって俺もあんたを捕まえられる状況じゃない」
あおいに先に降りるように目で合図を送る。
少し躊躇っていたが、あおいは下へと向かい始めた。
「この場は見逃してやるけどよ、また会うことがあったら容赦はしねぇ」
ぶっ倒れた蘭と、運動まるっきりダメなあおい守りながらこの何人も殺してる通り魔を相手に出来るわけがない。
今回は見逃してやる。
今回だけは、な。
「あんたが積み重ねた罪状や証拠を閻魔のように並び立てて必ず監獄にぶち込んでやっからそう思え」
その後廃ビルから出てタクシーを拾うべく隣のブロックに向かう。
抱き上げてる蘭の体温が高いのが服越しにも伝わる。
…ヤベェな。
「NY市警です。事件ですか?事故ですか?」
「…例の通り魔に会いました。手負いです。場所は、」
タクシーに乗り込み警察に通り魔情報を伝える。
俺は見逃してやったけど、警察に捕まっても俺を恨むんじゃねーぞ。
ピッ、とケータイの電源を切った。
「オメーは大丈夫か?」
電話を切った後あおいの顔を見ると、コイツもどこか顔色が悪い。
…まぁしゃーねぇけど、あんな事があったら。
「大丈夫」
「ほんとか?」
「うん」
とりあえず部屋戻ってドクターに蘭見せて、それから
「神様なんていない…」
「え?…なんか言ったか?」
「ううん、なんでもない」
何かを呟いたような気がしたが、あおいは小さく笑うだけだった。
そのあおいを目の端に捉えて部屋に向かった。
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bkm