キミのおこした奇跡side S


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New York Case


神様なんていねぇ


「この世に神様なんているのかしら?もし本当にそんな存在があるのなら一生懸命生きている人間は誰も不幸にならないんじゃない?そう、少なくとも私にAngelは微笑みかけてくれなかったもの。一度もね」


母さんの友達、アメリカの大女優シャロン・ヴィンヤードが言う。
全くもってその通りだ。
神様なんかいたら事件なんか起こんねぇし、そもそも俺もこんなことで悩んだりしねーっての!
そのシャロンの案内で楽屋に行くと「女優」の顔になったオキレーなお姉さま方がキャーキャーと母さんを持ち上げてた。


「ナイトバロニス?」
「ははっ。母さんがこっちでそう呼ばれてんだよ。ナイトバロンの作者工藤優作の妻だからってな」
「じゃあその子たちはあなたの子供?」
「彼はそうだけど、彼女たちは違うわ。ま、ショートの子の方はもしかしたら未来の、がつくかもしれないけどね」
「まぁステキ!」
「…最もそれも今日で怪しくなってきたけど」



ジロッと俺を睨んでくる母さん。
へっ、今日どころかもっと前から怪しくなってきてるっての!
それをなんとかしよーって、ここに来てんじゃねぇかよ!
ちょっとは協力しても


「新一何ブツブツ言ってるの?」
「…別に何も」


舞台も見せてくれるってなって、そのままゾロゾロと舞台を見に行く。
チラッとあおいを見ると帽子こそ被ってねぇけど、やっぱ俺を見ねぇんだよな…。
クソッ、あの寝言のせいで…!


「天井のあれってなんですか?」


蘭の声に上を向く。


「ああ、舞台の衣装よ。場所をとるから上につってあるの」


へー…。
そういう仕掛けが、ん?


「危ない!!!」


鎧!?
落下してくる鎧にあおいが目見開いたまま突っ立っていた。
あ、のバカ!!


「あおいっ!!!」
「Nooooooooooooooo!!!」


ローズの絶叫と、鎧が床に叩きつけられた音が響き渡る。


「蘭!!!!」


咄嗟に庇った腕の中のあおいの言葉で蘭の方向を見るとローズと共に倒れていた。


「大丈夫か!?蘭!!」
「う、ん…」


ゆっくり起き上がる蘭にとりあえず一安心。
大した怪我はなさそうだ。


「…いたっ!?」
「怪我したの!?」
「…つー…、この感じ、捻挫、かな?」
「すみません、足を捻ったようなんでテーピングか何かありませんか?」
「え、ええ。それなら楽屋に、」



足首をさする蘭を横目で見てから、テーピングを取りに楽屋に戻った。


「テーピングだけで大丈夫?」
「ええ、とりあえず固定して、後でドクターに見てもらいます」
「そうね、それがいいわ」



テーピングを用意してもらっている時、蘭と母さんが楽屋にやってきた。


「あれ?あおいは?」
「シャロンが落し物して、それを届けに行ったけど?」
「…へー」


アイツ迷子になんねぇだろうな…。


「蘭ちゃん自分で巻ける?」
「はい、部活でいつもやってますから大丈夫です」


そう言うと手際よく足首を固定し始めた。
蘭てほんっとなんでもできるよな…。
アイツと大違いだ。
その後あおいと合流し客席に行き幕が上がる。
一見、普通の劇。
に、


「きゃーーーーーー」


事件発生。
…歪曲した愛情が引き起こした事件。
歪んだ愛が執着に変わり、人を殺めた。
機内じゃ昔からの知り合い、ってこともあったし、目暮警部が俺の推理を聞き入れてくれたけど、こっちはアウェイだからなぁ…。
ここはうちのナイトバロニスに探偵になってもらうか。


「ある時は日本屈指の伝説的美人女優。またある時は世界を股にかける推理小説家の妻。かくしてその実態は灰色の脳細胞を持つ女探偵!ナイトバロニスよ!」


…俺やーっぱこの人の血継いでるよなぁ。
この目立ちたがりなところ、自分で言うのもなんだけどそっくりだぜ。
淡々と推理を披露する(淡々じゃねぇけど)母さんに追い詰められたローズ。
そして、


「神様はちゃんと私のことを見守ってくれてたみたいだわ。鎧が落ちてきたとき偶然釘が引っかかって逃げられなかった私を助けてくれたんだもん」


ローズは、蘭に微笑む。


「thank you sweet angle.you helped me do it.」


…バッカじゃねーの。
何がsweet angelだ。
テメーのいいように解釈してんじゃねーっての!
誰もそんなつもりで助けたわけじゃねーだろ!
って、言っても言われた方からしてみればそういうわけにはいかねぇよな…。


「あ、じゃあ私が助手席に」
「いいからオメーはここに座ってろ!」


タクシー呼んでホテルに帰る、って時。
相変わらず俺の隣に来たくねぇのかあおいが前に行こうとする。
オメーのサイズじゃ余裕で後部に3人座れっから余計な気遣いしてんじゃねーよ!


「んでな、その時ホームズはこう言ったんだよ。仮に地球が月の周りを回っていたとしても、僕の仕事には全く影響しないのだよ、ってな」


わかっちゃいたけど、あおいは喋んねぇし、蘭も蘭で、たぶん、落ち込んでる。
あおいが俺に目で蘭の様子を訴えかけてきた。


「どうした蘭?まさかさっきローズに言われたこと気にしてるんじゃねぇだろうな」
「え?彼女なんて言ってたの?英語がちょっとよく聞き取れなかったんだけど…」
「ならいいんだ。別に大したことは言ってねぇから」


そういう蘭の右手はきつく握り締められていて。
わかっちまったんだろうなぁ、って。
そう思った。


「あ!スミマセン止めてください!!」


飛ばされたハンカチを探しに蘭が車から降りた。


「ほっとけよ。たかがハンカチ1枚だろ?」
「ただのハンカチじゃないよ!シャロンにもらった大切な…」
「お、あれじゃねぇか?ほら、あの階段の手すりに引っかかってる白いの」


ハンカチが引っ掛かった建物は、誰も住んでない廃ビルらしかった。


「すぐ取ってきてやっから、蘭はタクシーに戻ってろ」


たかがハンカチ1枚。
でも落ち込んでる蘭には必要なのかもしれないって、ビルに入ったものの、すぐに建物内の異変に気がついた。
微かに感じる殺気のような視線。
そして、真新しい血痕。


−例の男には気をつけてよ?日系の男で長髪らしいから−


血の側に落ちていた、銀色の長い髪の毛。
心臓が脈打つ音が聞こえる。
間違いない。
ここに、通り魔がいる。
大きく息を吐き出し、逸る気持ちを抑えて1歩ずつ、歩を進めた。

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bkm

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