Clover


≫Clap ≫Top

賭け


2人きりのデート


「ねぇお父さん」
「なんだい?」
「…私今日学校があるんだけど」
「ああ、1日くらい休んでもどうってことないから安心しなさい」


6月21日晴れ。
昨日、っていうかもう今日に日付が変わってから、快斗におめでとうを言って。
学校行って朝1番でもう1度おめでとうを言うって約束したのに、気がついたら実父に拉致られ「超たっかい外車」に乗せられてました。
…快斗の怒る、いや、拗ねてる顔が目に浮かぶわ。


「でもお父さん、私受験生」
「心配ならいくらでも口聞きするから安心しなさい」


…それって俺の娘はバカだから裏口で入れてくれってお願いするから安心しろ、って娘に言ってるってこと?
これだから金持ちは…!


「どこ行くの?」
「ああ、明日アメリカに戻るからね。その前に娘と2人きりでデートしたかったんだよ」


軽くウィンクしちゃったくらいにして。
相変わらずうちのパパはダンディだ、なんて、どうでもいいため息が出た。


「ここは?」
「…ここは昔有希子とね、」


お父さんが私とのデートコースに選んだのは、あらびっくり、かつてお母さんとデートした場所だった。


「お母さんが恋しくなっちゃった?」
「…俺はいつでも彼女に恋してるがね」


我が父ながら、言うことがさすがだわ…。


「ちょうど新作に行き詰って書けなくなっていた俺は、ここで有希子が言った『たとえ他の誰にも読まれなくても、あなたが書き上げたものなら、私は喜んで読むわ!だって私があなたの1番のファンなんですから!』って言葉にひどく感動してね」
「うん」
「ああ、生涯を共にするならこの人しかいない。そう思った」
「…うん」
「その思いは間違いじゃなかったから、20年近く経つ今も、あの当時と同じように喧嘩もするがうまくやっているんだろうね」
「…喧嘩しなかったらもっとうまく行くと思うよ」
「おや、喧嘩をするのはお互いに素の自分をさらけ出せるということで良いことだと思うがね?」


昔を思い出してるのか、目を細めて優しく笑うお父さん。
…そう言われたら、お父さんからこういう話聞いたの初めてだ。


「早希子」
「うん?」
「人は『好き』だけではやっていけないんだ」
「え?」
「誰かを『好き』になる。その思いはいつか『愛』に変わる」
「…」
「それは誰にでも起こることだが、誰とでも起こることではない」
「…うん」
「いつか『愛』に変わる、そういう恋愛をしなさい」


くしゃっと頭を撫でるお父さん。
快斗とのことを言っているのか、快斗以外の人とのことを言っているのか、それはわからない。
でもお父さんはやっぱり、新一の言う通りすでに「花嫁の父」の心境なのかもしれないなぁ、とか。
そんなこと思った。


「さて、そろそろ時間だな」
「うん?」
「今日は1日つきあってもらうからね」
「え?」


そう言ってまた「超たっかい外車」に乗せられた。
目的地を聞いても行ったらわかる、って言うだけで謎のまま、車を走らせる。


「え?ここ?」
「ああ、ここを予約してる」


そう言われて連れて来られたのは、以前来たことがあるホテル。
の、


「ご予約の工藤様ですね」
「ええ。娘を世界で1番綺麗にしてください。うちの妻も妬くほどに」
「ふふふ、かしこまりました」


エステルームに連れてこられました。


「…それではお嬢様、こちらです」
「え、え、え?」
「ゆっくり綺麗にしてもらっておいで」
「え?で、でも」
「どこにいるか言付けておくから、終わったらそこに来なさい。では頼みますよ」
「はい、お任せください。こちらにどうぞ」


そう言って華麗に去っていくお父さん。
は?え?なんで?


「今日はお父様からトータルボディエステのご依頼を受けております」
「は、はあ…」
「何かアレルギーはお持ちですか?」
「い、いえ…」
「では簡単に説明させていただきます」


そう言ってお姉さんがこれから受けるエステの説明を始めた。
え、なんかよくわからないんだけど、とりあえずここのエステ受ければいいってこと?
は?なんで?
そんなこと思いながらも始まったエステだけど、やっぱり何度やってもらっても気持ちいい!
あっと言う間に小さな疑問も吹き飛んで、すっかり身も心もリラックスさせてもらった。
それにネイルアートつき!
…ほんとに何なの?


「お疲れ様でした」
「あ、はい、ありがとうございました」
「こちら、お父様からお召しになるよう言付かっております」


しかも着替えるの!?
ラッピングされている箱を開けると、ドレスワンピが用意されていて。
…これ着れって、またどこか行くってことなのかな?
その後エステのお姉さんがヘアメイクもしてくれて、お父さんが言った「世界で1番綺麗」にしてもらえた気がした。


「お父様は展望レストランでお待ちです」
「え?レストラン?」
「はい。準備が済んだらそちらに来るようにと仰っていました」


…なるほどー。
ここの展望レストラン、緩いけどドレスコードあったからなぁ。
もう何事かと思っちゃったじゃない!
お母さんにプロポーズしたホテルで、わざわざエステさせて、ドレスワンピ着せた娘と食事したかったのね…。
…やっぱりお父さん、お母さんが恋しくなったんだな。


「すみません、工藤ですけど、」
「ああ、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


妻にプロポーズした場所で娘とデートって、なかなか良い年の重ね方だと思う。


−いつか『愛』に変わる、そういう恋愛をしなさい−


その結果が今に繋がってるの、かな。
ちょっと、憧れる。


「お連れ様がお見えです」
「ああ、早希子。また一段と美しくしてもらったね」


軽く片手をあげ挨拶してくれたお父さん。
でも、その正面には


「快斗…、なんで?」


いつもとは違う格好をした快斗が座っていた。

.

prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -