Clover


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賭け


そして誕生日


「だからこれは不測の事態なの」
「…」
「私もどうすることもできなかったんだからそんなに怒らないで」
「…」
「お父さんがアメリカ戻った後でお祝いしよ?ね?」


翌日、「あの」工藤優作が超たっかい外車で乗りつけたことはすっかり噂で広がり。
私が話す前に快斗はお父さんがこっちに来てることを知っていて。
そして現在昼休みのいつもの屋上。
あり得ないくらい不貞腐れて不機嫌な快斗様の目の前で謝罪中です。


「誕生日過ぎてから祝うって?どーせ早希子にとって俺の誕生日なんてそんなもんなんだよな」
「そんなこと言ってないじゃん!でも仕方ないでしょ?お父さん22日までいるって言ってるんだし!」
「だいたいあの人なんで俺の誕生日知ってんだよ!」
「偶然だって!たまたま誕生日翌日の22日までいることになったんだからそんなに怒らないでよ」


でも私も思ってる。
あのお父さんのこと。
絶対快斗の誕生日を知っていて、わざと快斗の誕生日の翌日にアメリカに戻る予定を組んだに違いない。
…でもそれを今言っても何も始まらないから言わないけど。


「んな偶然あっかよ…」


ですよねー。
わかってる。
気持ちは快斗と一緒だよ。
だから許して…。


「あーあー!高校最後の誕生日をまさか大魔王に邪魔されるとは思ってもみなかった!」
「だからごめんて」
「俺すっげー楽しみにしてたんだけど!」
「それは、うん。私もそうだったよ…」
「だから、」
「うん?」
「その週の週末は金曜から泊まりこむからな」


覚えとけよ!って不貞腐れながら言う快斗。
申し訳ないことしてるとは思いつつも、こうやってわかってくれるからありがたい。
て、


「何してんの?」
「だって早希子ちゃんこれから放課後直帰でしょ?なら今するしかねーし!」
「しないから!」
「いってー!オメーなぁ、俺は誕生日もまともに祝ってもらえねぇんだぞ!?」
「それとこれとは話が別でしょ!?」


この所構わず発情する部分、ほんっとにどうにかしないと…。


「オメーも大変だな」
「…他人事だね、お兄ちゃん」
「いやー、俺男に生まれてマジで良かった!」


お父さんの「あえて」の行動で、何故か新一まで数日の間、江古田のマンションに泊まりこむことになった。
…これは間違いなく快斗に対する嫌がらせだな、うん。


「まぁさー、仕方ねぇんじゃねーの?」
「そうは言うけどさ、」
「アイツ的にはハラワタ煮えくり返ってっかもしんねーけど?でも父さんも翌日にあっち戻るって言ってんだし。1年のほとんどはオメーの自由にさせてやってんだから、その日くらい目瞑ってやれって!」
「…自分がその立場だったらどうするの?」
「そりゃー、全力でそこから連れ去る方法考えっけどな」


ほら、やっぱり…。


「でも黒羽もわかってるだろ?んなことしたって何のためにもなんねぇ、って。父さんはまぁ…、花嫁の父の心境、って奴だ」
「もう?別に結婚するわけじゃないのに!」
「まーそう言うなって!父さんはさ、…8年ぶりに怪盗キッドが復活してから、心配で仕方なかったと思うぜ?」
「…」
「それがようやくケリついたって流れになっただろ?こんくらい可愛い妨害だと思って許してやれよ」


そこを引き合いに出されたら、何も言えないじゃない。
でも、


「お兄ちゃんは、お父さんが気づいてたと思う?」
「おめぇなー、誰だと思ってんだよ?あの工藤優作だぜ?世界屈指の推理小説家で、俺たちの親父!…気づいてねぇわけねーだろ?気づいてた上で、今まで自由にさせてたんじゃねぇの?」
「…そう」


お父さんは初代怪盗キッドを知っていた。
ならやっぱり、2代目は息子の快斗だって、確信してたのかな?
それを胸に秘めたまま、私を江古田に通わせ続けたのかな。
そう思うと、確かに新一の言うように、今回のお父さんの行動、憎めないんだよなぁ…。


「昔ね」
「あん?」
「盗一さんに、あ、快斗のお父さんね」
「ああ、知ってる。プロマジシャンの黒羽盗一だろ?」
「うん。盗一さんにね、『キミの王子は魔王と大魔王を倒さなければいけない』って言われたんだけど、」
「…その言い方から察すると魔王は俺か?」
「さっすが、名探偵!で、大魔王が」
「父さん、ね」
「うん。なんかまさしく今そんな状況だって思っちゃった」
「はは…」


これからの人生を考えた時。
お父さんのこの行動は、ほんとにささやかな抵抗なのかもしれないなぁ、とか。
快斗本人に言ったらどこがささやかなんだ!って言われそうだけど。
お母さんとは違う思いで快斗を見てるお父さんだからこそな行動なわけで。
今年くらいはそれにつきあってあげようかな、とか思った。


「で、ほんとに電話で祝われるとは思わなかったんだけど」
「ごめんて…。朝学校に行ったら1番に言うから」
「へーへー」
「18歳おめでとう、快斗」


6月21日、午前0時2分。
快斗の18回目の誕生日になった。

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