Clover


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戸惑い


何も変わらない


「赤ちゃん、できたかもしれない」
「うん、知ってる。それで?」


言い終わった後、快斗の顔を見るのが怖くて、目を瞑った。
ん、だけど、


「し、知ってる?知ってるって何!?」


返ってきたのは予想外の答えだった。


「オメーなぁ、俺を誰だと思ってんだよ?」
「だ、誰、って、」
「オメーの体調不良も、生理が来てねぇのも、気づいてねぇわけねーだろ?」


気づいてねぇわけねーだろって何!?
じゃあ知ってて黙ってたわけ!?


「いや、黙ってた、っつーか、状況証拠なだけで決定打がねぇから俺から切り出していいもんかと思って」


何ソレ!
私ずっと快斗の反応が怖くて1人で悩んでたのにっ!!


「で?」
「え?」
「え?じゃなくて、いつ?」
「い、いつ?」
「予定日!」
「はっ!?」


よ、予定日!?
予定日って何!


「何じゃねぇよ!俺たちの子どもはいつ生まれんのか聞いてんの!」
「俺たちの子ども!?」
「は!?まさか俺の子じゃねぇとか言う気か!?」
「そんなわけないでしょっ!!」
「だよなぁ?もしそうだったら俺もう2度とこの家から出ねぇ引きこもりになるぞ」


ビビらせんじゃねぇよ、とか言う快斗は無理してるとかじゃなく、どう見てもいつもの、私が知ってる快斗で。


「生んで、いい、…って、こと?」
「はあ?何、オメー堕ろす気でいたのかよ?」
「そう、じゃ、なくて…、なん、ていうか、まだどうしていいかわかんない、から、」
「安心しろ」
「え?」
「俺たちの子どもならどっちに似ても絶対可愛いに決まってるっ!」


…一気に肩の力が抜けたのは気のせいじゃないはずだ。


「それで女の子だったら親子でウサギさんになってね!」
「…………男の子だったらどーするの?」
「そん時は俺が責任持って侍にしてやる!」


…なんて平和な未来予想図なんだ。
ウサギか侍…。
すごく快斗らしい。
快斗らしいんだけど、なんかこう、もっとないわけ?
私が1人頭を抱えたこの数日を返してって言いたいわ…。


「で?」
「うん?」
「予定日は?」
「…や、わ、かんない、っていうか、まだほんとにしてるかも、わかんない、し…」


だってまさか快斗がこんなにwelcome babyになるなんて予想外だったから!
いくら快斗でもさすがにめんどくさい、とか。
嫌な顔するって思ってたし…。


「じゃー、一緒に行くか?」
「…え?」
「妊娠してるかどうか見てもらいに。俺は男だから正直よくわかんねぇけど、…1人じゃ嫌だろ?産婦人科行くの」
「…ついてきてくれるの?」
「トーゼン!だって俺の子だし!」


ニヤッて笑う快斗は、ほんとにいつもの快斗で。
少し、視界がボヤけた気がした。


「…どうせ一緒だぜ?」
「え?」
「俺は早希子以外の女に自分のガキ生ませる気ねぇし。だからあとはオメーが今生むか、後で生むかの違いなだけってこと!」


あはは!って快斗が笑う。
でも、「今」か「後」かじゃ、全然違う。
快斗のこれからの人生が、全然違うものになってしまう。
そんな私の思いを知ってか知らずか、快斗は優しく抱き締めて背中を撫でてくれた。


「つーか俺の最大の心配は、」
「うん?」
「…卒業前に早希子妊娠させたって知った魔王と大魔王に殺されんじゃねぇかってことなんだけどな」
「…ああ」
「魔王はまぁいーんだよ。アイツだけならかわせっから。ただなぁ…、大魔王が…」
「間違いなく精神的ダメージを与えにくるだろうね」
「だよなぁ?『快斗くん。嫁入り前の私の可愛い娘に何をしてくれたのかな?まさか責任取ってこの勢いで結婚、なんて言わないでくれよ?』って、ところから始まって延々と俺にスピリチュアルアタックしてくるぜ、あの人」


考えただけでおっかねぇ、とか。
私の背中を撫でる快斗は、ほんとにいつもの快斗で。


「快斗、」
「んー?」
「…ごめん、ね」
「は?何のごめんだよ?」
「…ありがと」


いつもと変わらない快斗。
いつも通り、私を抱き締めてくれる快斗。
何も解決してない。
してないんだけど、ホッとしたのと、気が抜けたのと。
いろいろな感情が入り乱れて溢れてくる涙と共に、この後しばらく快斗にしがみついていた。
だからほんとは快斗が何を思い、何を考えていたのかなんて、私が知ることはなかった。

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bkm

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