Clover


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戸惑い


戸惑い、不安


「やっぱり無理!」


なんだか眠れない。
そう思っていたけど、最近疲れてるからか意外なほど早く眠りについた。
そして目が覚めたら宮野志保ちゃんがいた。


「や、やっぱりいきなりそんなっ!」


志保ちゃんが用意した朝ごはんを食べた後、杯戸町にある個人院に来たわけだけど…。


「あのねぇ、好きな男に足開くか医者に足開くかの違いでしょ?」
「全然違うじゃないっ!!」


躊躇いなく産婦人科に入ろうとする哀ちゃんの前に、どうしても足が怯んだ。


「…ねぇ、もう10分も入り口前にいるんだけど」
「だ、だって…!」


昨日は全然現実味がなかった。
でもいざ産婦人科の前に来たら、お腹大きい人が出入りするのを見てたらだって…!
そんなことぐるぐる考えていたら志保ちゃんが深い深いため息を吐いた。


「わかった」
「…え」
「今日は止めましょう」
「え?」
「ただし、条件があるわ」
「じ、条件?」
「市販の検査キットを買って今日中に調べること。それで陽性が出たら引っ張ってでも連れて来るから。陰性が出ても待てて2週間。それでも生理が来なかったらやっぱり引っ張ってでも連れて来る。いいわね?」
「い、いいわね、って言われても…」


志保ちゃんがジロリと私を見る。


「あなたねぇ、もし本当に妊娠していたら決断の期限は限られてるの。あの彼のことだからそんなこと言わないと思うけど、もし堕胎の選択をするのであれば、早い方がいい。…あなた自身のためにも」
「だ、堕胎、って…」


まだ妊娠してるかもわかんないのにそんなこと…!
なんかもう一気にパニックになってきて泣きそう。


「…しっかりしなさいよ、まだ何もわかってないじゃない。検査キット買ってきてあげるから一旦博士の家に帰るわよ」
「し、志保ちゃん…」
「何?」
「なんでそんなに冷静なの?」
「…そういう性格なの」
「実は経験者?」
「殴るわよ?…パニックになってる人間と一緒にパニックになっても何も解決しないでしょ。私まで冷静さを欠いてどうするの。…親友なんでしょ?だったらなおさら私が冷静にならなくてどうするの」


妊娠してるかもしれない。
そのパニックで泣きそうだった。
でも、あの灰原哀が、ううん、宮野志保が、私を親友認定していたことに堪えていたものが溢れてきた。


「…産婦人科の前で号泣しないでくれる?恥ずかしい人ね」


そう言いながらも私の肩を抱く志保ちゃんに本当にホッとした。
その後は、志保ちゃんに手を引かれ、博士の家に戻った。


「陰性、ね」
「うん…」


志保ちゃんが買ってきた検査キットでは陰性。
妊娠はしていない。
でも、


「さっきも言ったけど、待てるのは2週間。それでも生理が来ないなら病院に連れて行くわよ」
「…うん」


昔と比べて高性能になったとはいえ、所詮市販の検査キット。
絶対じゃない。
何かあったらすぐに連絡するよう念を押されて、その日は江古田のマンションに帰った。
部屋で1人きりになると、一気に現実味を帯びてきたような気になった。
そりゃあ、ずっと一緒にいるなら快斗がいい。
それは間違いない。
でも、私たちはまだ高校生で、快斗には叶えたい夢があって。
その邪魔になりたくないから、イギリスに行くって、自分の道を行く、って、決めたのに…。


「どうしよう、不二子ちゃーん…」


ぽー


小さく鳴く不二子ちゃん。
快斗がくれた、大切な同居人。
こういうことは、確定してから言うものなのかな?
それとも今後のこともある、し、今言った方が、いい、の、かな…?
考えなきゃいけないこと、わからないことが多すぎて、逆になにも考えられない。
ただはっきりとわかるのは、これを聞いた快斗の反応を、怖がってる自分がいること。


−あの彼のことだからそんなこと言わないと思うけど−


そんなのほんとのところはどうかなんて誰にもわからない。
いくら快斗でも、嫌がるに決まってる。
例え一瞬だったとしても、嫌な顔、困った顔、するに違いない。
だって、誰が見ても、今の快斗に私の妊娠は邪魔にしか、ならないから。
ただただ、それを怖がって、何も出来ないまま時が流れる。
志保ちゃんとの約束の日まであと9日。
結局何も進展はない。
生理が来たわけでもなければ、快斗に打ち明けたわけでもない。
もうほんと、どうしていいのかわからない。


「早希子…」
「…っごめん、今日無理」


いつもの快斗の部屋で、いつものようにキスしてこようとする快斗の胸を押し返した。
…ああ、きっと快斗驚いてる。
出来ない日でも、キスだけはしていたから。
でも今はキスすらする気分になれない。


「…悩みがあんなら俺に言えよ?早希子」


でもそれを言ったら、快斗の反応をみることになるじゃない。
例え一瞬でも快斗が、私が妊娠したかもしれないことで困った顔をしてるところ見たくない。


「早希子、俺に言え」


私の頭を優しく撫でてくれる手が止まって、がく然としてる姿、見たく、ない。


「大丈夫だから、俺に言え」


片手で、私の頭を優しく撫でて。
片手で、私の手をしっかり握りしめてくれる。
この温もりが、止まってしまうかもしれないなんて、嫌。
…でも、


「快斗ごめんっ…」


もう、1人じゃどうしていいか、わからなかった。


「…赤ちゃん、できたかもしれない」


無意識に快斗に繋がれていない方の手で、お腹を触りながらきつく目を閉じた。

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bkm

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