Clover


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戸惑い


疑惑


「工藤くん、もう1回江戸川コナンに戻ってくれないかしら?」


博士の家について哀ちゃんに出されたお茶を飲んでいたら、ボソッと呟かれた。
ちなみに博士は今日は昔のご学友の方々と温泉旅行だそうだ。
博士にもたまには子守から解放される時間が必要、ってことだよね。


「そんなに大変?」
「聞かなくてもわかるでしょ?」
「…ですよねぇ」


無鉄砲小学生のお守りは、新一がいないと全部哀ちゃんの肩に圧し掛かってくるからなぁ…。


「戻らないの?」
「来年の5月」
「え?」
「…大学入試があるからそれを目処に戻るつもり」


哀ちゃんは哀ちゃんで、自分の道を歩こうとしてるんだよね…。


「そうなったら寂しくなるね、少年探偵団」
「あら、じゃああなたが入ったら?」
「…それは嫌だなぁ」


新一のようにあの子たちと常に一緒にいれる自信、私にはないわ…。


「それしか食べないの?」
「ん?んー…、最近食欲なくて…」
「あら、あなたが痩せたら彼悲しむんじゃない?」
「え?」
「好きそうだし。大きい胸の女性」
「…ソーナンデスヨネ」


哀ちゃんにあっさり見抜かれた快斗って、どんだけおっぱい星人だと思われてんだ…。
いや、一概に否定できないけど。


「彼怒らなかった?」
「あー、進路のこと?」
「ええ」
「怒った、っていうか、拗ねた?」
「ああ…」


それっぽいわね、と、何か納得した哀ちゃん。
その後は「江戸川コナン」菌のせいで一般人だったはずの少年探偵団が哀ちゃん曰くいかにくだらない事件に巻き込まれる率が高いか、いかに無茶苦茶な行動をするのか、延々と聞かされた。
それでもちゃんと彼らと行動してるあたり、やっぱり哀ちゃんは優しいと思う。
一通り話終わった後で、じゃあお風呂入ってくる、と立ち上がった。
瞬間、


「ちょっと大丈夫!?」


ぐらり、と立ち眩みがしてその場に膝をついた。


「…最近ちゃんと食べてないから貧血気味なのかなぁ?」


食欲湧かないどころか、吐き気すらするし。
そう言った私の肩を触っていた哀ちゃんの手がピクッて動いたのがわかった。


「ねぇ、」
「うんー?」
「…最後の生理はいつ?」
「え?」


それが意味することって言ったら1つしか思い浮かばないけど、この時の哀ちゃんの言葉よりも、横に立つ哀ちゃんの表情があまりにも真剣で、それを見てもしかして、って感じた。


「…哀ちゃんさすがにそれはナイよ」
「いつ来たの?」
「いつ、って、先月は、」


そこまで考えて、思い至る。
…私先月生理来たっけ?


「…来てないのね?」
「…や!でも、ほら!快斗、新一にゴム送るくらい、そういうのすごい気をつけてるし!」
「…工藤くんに何送ってるのよ、あの人」
「いや、送った、って言うか送りつけた?で、でも、ほら、そういうことするくらい気をつけてる人だし!も、もう!哀ちゃんて発想が極端なん」
「100%じゃないことくらい知ってるわよね?」
「え、」
「絶対なんて言葉、この世にはないの。コンドームつけても、必ず避妊できてるわけじゃないことくらい、知ってるでしょ?」
「…そ、そりゃあ、まぁ、」
「で?」
「え?」
「心辺り。ないの?」
「え!?い、いや、心辺りって言っても、だからいつもちゃんとつけて…」


−サイテー!!−


快斗の家の玄関で押し倒されたあの日、つけてないどころか、中で出した気がする…。


「…呆れた。思い当たることあるのね?」
「…や!でも、その1回だけだしっ!!」
「例え、」
「う、うん?」
「例えたった1度だろうが出来る人は出来るし、100回やっても出来ない人は出来ないものよ」
「…そ、そんなこと、」


言われたら何も言い返せない…。


「明日、」
「え?」
「ちょうど学校休みだし、病院行きましょう」
「…え!?」
「私もついていってあげるから」
「…や!で、でもほら、それは哀ちゃんの憶測であって」
「病院に行って違ったら良かった良かった、本当だったらそこからどうするか、早く考えなきゃなんだから早く行くに越したことないでしょ?」
「だ、だけど…」
「米花町じゃ、あなたが嫌でしょ?かといって学校がある江古田じゃマズイわよね。…杯戸町で良いところないか探してみるわ」
「ち、ちょっと待って!!」
「…何?まさか行かない気?」
「い、いや、行かない気、って、いうか…」
「…て、いうか何?」
「哀ちゃん付き添ってくれるのは心強いけど、まさかその姿で付き添う気じゃないよね?」
「…」


産婦人科の妊娠疑惑検査に小学生に付き添われるって…。


「安心して。工藤くんにあげてた試作品のAPTX4869の解毒薬が残ってるから。宮野志保の貴重な24時間をあなたにあげるわ」
「あ、ありがと…」
「…でも安心した」
「え?」
「もっとパニくるかと思ったけど、意外と冷静ね」
「…や、冷静、って言うか」


あまりにも急で現実味がなさすぎて、心がついてこない、っていうか…。


「もしほんとに、」
「え?」
「……いえ、なんでもないわ」


じゃ調べるから、あなた大丈夫そうならお風呂入ってきたら?
そう言ってパソコンの前に向かった哀ちゃん。
その姿を目の端に捉え、お風呂に向かった。


−もしほんとに、−


哀ちゃんが、何を言いかけたなんて、聞き返さなくてもわかる。
もしほんとに…。
そうだったら、私は、…快斗は、どうするんだろう。
今だ何も考えられないのは、やっぱりどこか他人事のように感じてるせいなのかもしれない。
なんとなく。
自然と手が、お腹にいった。
もし、ほんとに…。
1度深く息を吐き、ゆっくりとお腹から手を離した。

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