Attack On Titan


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ラブソングをキミに


悔いなき選択 5


「…生乾きだ…。」


ナナバさんの部屋にお世話になるようになって、10日が過ぎようとした日。
その間、ナナバさんにリヴァイさんの部屋から持ってきてもらった服(主にインナー)を着まわしていた。
ん、だ、けど、午前のミケさん指導の訓練で汗を掻いてしまい、1度着替えようとお昼休憩の時に部屋に戻ってきた時。
ここ数日の雨で洗濯物の乾きも悪く、ついに着る物がなくなってしまった…。
…チラッ、と、時計を見る。
この時間なら、きっと部屋にいない。
今しかない…。
コソコソと隠れるようにリヴァイさんの部屋に向かった。


コンコン


………一応、ノックして誰もいないことを確認する。
別に悪さをする、とかじゃなく、ただ自分の服取りに来ただけなのに、すっごく居た堪れない気持ちだ。
部屋の中に入ると、相変わらずシーツのシワに至るまでピッ!と張り詰めたような空気を持ってる空間が目の前に広がった。
………浸っている場合じゃなくて、早く必要なものを出して部屋から出よう。
部屋の中に入って自分の服がしまわれているチェストをあけ、ゴソゴソと用意し始めた時、


カチャ


突然部屋の扉が開く音が響いた…。


「……………」
「……………」


誰か、なんてそんなの、顔を見なくてもわかるわけで…(というか、顔が見れないわけで)
ドアを開けて入ってきた人物が、そのドアの前で立ち尽くしてるのがわかる以上、私も微動だに出来るわけがなく…。
一瞬のような、それでいて、目眩がするほどの長い沈黙が辺りを包んだ。
その沈黙を破ったのは、


「おい。」


リヴァイさんだった。


「お前、いつまでナナバのところにいるつもりだ?」


……………それは私が知りたいです…。
考えなければいけないことは、1つなのかもしれないけど、その問題が今の自分じゃ結論が出せないほど大きくて、全く解決という名の出口が見える気配すらないんです。
リヴァイ、さん、の、ことは、大切です。
でもやっぱり、ラガコ村のパパママは「家族」なわけで、何言われても知りません、なんて…、出来ないんです。
そんな状況で、この部屋に戻ってきてしまったら、答えを間違えてしまいそうで、怖いんです。
だから少しでも落ち着くまでは、って自分でも思っていたけど、全く落ち着く気配もなくて、ただただ、時間だけが過ぎていってるんです…。


「………悪かった。」


でもだからって、その「問題」に触れそうなことをリヴァイさんに話せるわけもなく、何をどう言おうかと押し黙る私に、再びリヴァイさんは声をかけてきた。
あまりにも聞きなれない、リヴァイさんからの言葉に思わず、ドアの近くで佇んでいるリヴァイさんを見遣った。


「いい加減、戻ってこい。」


そう言いながら、リヴァイさんは眉間にシワを寄せて床を睨みつけていた。
それはいつものリヴァイさんらしい行動。
…でも、なんでだろう…。


「う、後ろ、」
「後ろ?」
「…後ろ、向いてください。」
「……あ?」


私の言葉に、リヴァイさんはそれまでとは違い、お前何言ってんだとでも言うように眉間にシワを寄せた。


「向いて、ください。」
「……………」


どこか腑に落ちないような顔をしながらも、リヴァイさんはドアの方を向いた。


「…………」
「…………」


後ろを向いたリヴァイさんの背中には、翼が掲げられている。
…きっと、誰よりもこの人にこそ相応しい、自由の翼が…。


−いい加減、戻ってこい−


私にそう言ったリヴァイさん。
その顔はいつものように眉間に深いシワを刻んでいて。
…だけどよく見ると、いつもとは、ちょっと違う。
それは本当に一瞬のことだったけど…。
こんなこと言うと、怒られるかもしれない。
…でもその表情はまるで、拗ねた時のコニーを彷彿とさせるような、そんな表情だった。


「!」
「……………」


近づいて、リヴァイさんの翼に手を触れ、体にもたれかかるように顔をつけると、リヴァイさんの心臓の音が聞こえてきた。
…兵団に、国王に、そして人類に捧げた心臓は、今ここで、こんなにも心地よい音を刻んでいる。
この人は、誰もが認める「人類最強」で、私よりも年上で、自分にも他人にも、とても厳しい人。
でもどうしてだろう…。


「心臓の音がしますね。」
「……生きてんだから当然だ。」


あの、ほんの一瞬の顔が、とても、可愛いと、感じた。


「私、」
「なんだ?」
「リヴァイさんの心音が、1番落ち着きます。」


とても、愛しいと、感じてしまった。


「………そうか。」
「はい、そうです。」


その瞬間、目の前が晴れていくような、そんな錯覚をした。
…結局、どんなに悩んでいても、もしかしたら悩んだフリをしていたとしても、自分の心の奥底の気持ちだけは、偽れないと言うことだ。
それからしばらくの間、どんな音よりも私にとってはきっと、世界で1番、大切な音を聞いていた。

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