■悔いなき選択 3
「パパ!ママ!こっち!!」
帰還してから5日目、つまり、リヴァイさんの元から飛び出して5日目が経過した今日、ラガコ村からパパとママがやってきた。
…と、言うのも、遠征中に、1度ゆっくり話がしたい、って内容の手紙がママから着ていて。
何事かと思って帰還後すぐに返事をしたら、パパと一緒にこっちに来るって返事が着た。
本当に何事だろうかと、少しの不安を抱えつつ、休暇日の今日、ママたちと会うべく、トロスト区に来ていた。
「あぁ、フィーナ!良かった!」
「…何が良かった?」
「ん?んー…、お前が無事に帰って来てくれたからだよ。」
久しぶりの再会は、ママの困ったような笑顔から始まった。
「どこか行きたいところ、あるの?」
「うーん…、そうだねぇ…。」
「ゆっくりと話が出来るところがいいかな。」
困ったような笑顔のママに居たたまれなくなって、話を変えてみたんだけど、私に答えたパパもやっぱりどこか、困ったような顔をしていた。
「じ、じゃあ、美味しいパン屋さんあるんだけど、そこに行く?確かカフェスペースもあって店内でも食べれるはずだし。」
「へぇ…、美味しいパンにカフェ?なんだか贅沢だね。」
ふふっ、と優しく笑うママに、どこかホッとした。
「あ、ちょうど奥の席空いてる。」
パン屋に着いてカフェスペースを見たら、ちょうど4名がけの席が空いていて、そこに座ることにした。
それぞれパンを1つずつと、飲み物を注文したところで、
「…………」
「…………」
「…………」
微妙な沈黙が流れた。
………え、えぇー、っと…。
ここはやっぱり、「私が」話を振った、方、が、いい、んだよ、ね…?
…でも何しにきたの?っていきなり確信ついていいのかな?
でも話しにくそうな内容っぽいし、自然と話してくれるのを待つ…?
だけどこの沈黙は…。
「フィーナ。」
なんて私が思っていたら、パパに名前を呼ばれた。
「お前、どうだい?調査兵団の仕事は。」
「…ふ、つう、だよ?」
「体はついていってるのか?」
「…復帰、して、すぐ、は、ちょっと大変だった、けど、でも今はなんとか…。」
「そうか…。」
私の言葉にパパは目を伏せた。
…パパのそのちょっとした行動に、ざわり、と胸がざわついた気がした。
「母さんとも話したんだけどね、」
「う、ん…?」
「…フィーナ。…兵士を辞めて、お見合いしないか?」
「…ぇ…」
「お飲み物お持ちいたしました。コーヒーの方、」
パパの言葉が一瞬理解出来なくて、掠れた声が漏れた直後、お店の人が飲み物を持ってきてくれた。
カチャカチャと揺れるカップからは、…リヴァイさんが飲むことのない、紅茶の匂いがした。
「……ご、ごめん、言、ってる、意味が、わ、かん、な、」
「だから!…もう兵士なんて辞めて、村に帰って来ないかって言ってるんだよ。」
私の言葉に、ママが答えた。
「…な、に、言って、」
「お前が兵士になる、って言い出した時はまだ…、私たちにも『巨人』なんて現実味がない存在だったけど、ウォール・マリアが落ちて、…何よりお前があんな大怪我して帰ってきてから、心配で心配で仕方ないんだよ…!」
ママが今にも泣き出しそうな顔で言う。
「父さんの古くからつきあいのあるエンゲルさん、覚えているかい?」
「…し、らない…。」
「…エンゲルさんちの息子が今年25歳になるからそろそろ家族を持たせたいと言っていてね。」
「…」
「お前ももう20歳だしちょうどいいんじゃないかと、話していたんだ。」
「ち、ちょっと待って!」
淡々と話を進めるパパに、思わず声を荒らげた。
「私別に結婚したいなんて思ってない!」
「フィーナ…。」
「それに調査兵団だって辞めようなんて思ってない!」
「……」
「そんなこと勝手に、」
「ねぇ、フィーナ。」
声を荒げる私に、ママはとても静かに話始めた。
「コニーからお前が大怪我して帰ってきたと聞いた時、どんな思いをしたか、わかるかい?」
「…そ、れは、」
「お前はちゃんと生きて帰ってきてくれた。…でも、次もそうだとは限らないだろう?」
「……」
「親が子供に、気持ちを押し付けちゃいけないってわかってるけど、でももう…、2度とあんな思いしたくないんだよ…!」
そう言うと、ママはハンカチで目元を抑えた。
ママたちの言いたいことは、すごくよくわかる。
「調査兵団の兵士」なんて、危ない道を自ら進んでほしくない、って。
それは私がコニーに思うことなんだから。
よく、わかる、けど…。
「わ、たし、まだ、結婚なんて、」
だって、それはつまり………。
「今すぐ結論を出せとは言わない。…ただ、父さんたちはそうしてほしいと思っていることを、知ってもらいたい。」
「………」
「『調査兵団の兵士』と言う、人類のために戦う人たちは素晴らしいと思うし、その兵士になったフィーナを誇りに思う。」
「………」
「…だからもう人類のためじゃなく、お前のため、…母さんのためにも、帰ってきてくれないか?」
帰り際、パパが言った言葉が耳から離れなかった。
パパたちの言いたいことは、わかる。
でも、それはつまり、……リヴァイさんの傍から、離れる、って、ことで…。
いくら今、一緒にいないから、って、これから先、ずっと、リヴァイさんがいない生活を想像出来るか、って言ったら、それは………。
しばらく考えてくれ、と言って別れたパパと、最後の最後まで涙ぐんでいたママの顔が、いつまでも脳裏に焼き付いていた。
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bkm