Attack On Titan


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ラブソングをキミに


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「おい、フィーナ。」
「…ん…」
「ついたぞ。」


どのくらいそうしていたのか、肩を揺さぶられた振動で目を開けると、


「あ、あれ?」
「さっさと起きろ。」


いつの間にかリヴァイさんの肩にもたれて寝ていたようだった…。


「す、すみませっ、」
「降りるぞ。」
「………」


慌てて起きた私に、何を言うわけでもなく、リヴァイさんは席から立ち上がり、馬車から降りていった…。
…いや、うん、すごくリヴァイさんなんだけど、なんて言うかもっとこう…ないんですよね…。
なんて思いながら、リヴァイさんの後に続いて歩き出した。
私たちが普段使っている馬車はだいたい、2〜3段の踏み台が外側についていてそこを使って乗り降りするんだけど、たまにこの馬車みたいに踏み台が1段しかなく飛び乗ったり飛び降りたりしなければいけないタイプのものがある。
そしてそこは「兵士」として日頃体を鍛えているため、軽々と飛び乗れたり飛び降りれたりできるわけだけど、


「…………」
「…………」


先に降りたリヴァイさんが、こっちに向けて手を差し出していた。
リヴァイさんはさも当たり前と言うような表情(というか無表情なんだけど)で手を差し出していて。
それはつまり自分の手に掴まって降りろ、ってことで…。


「あ、ありが、とう、ござい、ます…。」


少し、ためらいながらその手に自分の手を添えるように置くと、リヴァイさんはグィッと私が降りやすいように、少しだけ自分の方に引きよせてた。
それに合わせて私もトン、と地面に足が着く。
私たちが降りたことを確認した後で、ゆっくりと馬車は走り出した。


「…………」
「…………」
「……で?ストへスに着いたがどこ行きたいんだ?」


馬車が去ってから、リヴァイさんが私を見遣りながら言った。
………そこなんです、ずっと悩んでいたのは。


「ど、」
「あ?」
「どこ、行き、ま、しょう…?」
「……………」


だって考えてもみてください。
人と接するのが苦手だった上15の時から兵士として訓練してきてですね、お陰様で親友と呼べるような子も出来ましたがでも女友達と出かけるのとこういうのってまたちょっと違うじゃないですか。
訓練兵だった時とか。
たまにラガコ村に帰りましたけど、帰省後一緒に出かける相手と言えばコニーなわけで何をするって近所の林に行って木登りつきあったりとかだったんですね。
しないでしょう、こういう時に木登りなんて。
むしろ木登りするぞ、って言われてもこんな格好で絶対したくないです。
逆に聞かせてください。
こういう時、どこで何をするのが正解なんですか…?


「フィーナ、」


私がぐるぐるぐるぐる考えていたら、リヴァイさんがゆっくりと口を開いた。


「お前自分が歌うことはあっても人の歌を聴くのは抵抗あるか?」
「…え?」
「少し行ったところに生歌、生演奏を売りにしてる店がある。昼間は喫茶店としてやっていたはずだ。行くか?」


仮にここで行きません、と言う選択肢を出したとしてもじゃあどこ行くんだ?ってなった時にとても案を出せるわけのない私は、リヴァイさんの案にただ黙って頷いた。
こっちだ、とリヴァイさんは歩き始める。
その後をひたすらついていく。
…ん、だけ、ど…。
デ、デート、って、こういうものではないような気が、しなくも、ない、ん、だけど…。
こう…、もっと、例えば手を繋いだりとか、腕を組んだり、とか…。
いやでも、あんまりそういう人たち見かけないし(いないわけじゃないけどベタベタしてる人があんまりいない、っていうか…)実は私の認識間違いで、これが普通…?


「…ぃ、おい、フィーナ!」
「は、わっ!?」


再びぐるぐる考えていたら、リヴァイさんが急に大声を出して。
それに返事しようとした瞬間、ガクッ、と足を踏み外した。


「…………」
「………す、すみませ、」


冷静に辺りを見渡すと、いつの間にか石段の前まで来ていたようで、その石段で足を踏み外した私を、私より先に石段を降りていたリヴァイさんが受け止めてくれた。


「お前、また怪我する気か?」
「そ、そん、な、つもり、は、」


リヴァイさんが無表情ながらも怒ってる(いやむしろ呆れてる)のが、顔を見なくてもわかった…。
リヴァイさんが大きく1つ、ため息を吐いた。
その声に、ビクッ、と体が反応したのが自分でもわかった。


「手出せ。」
「え?手?」
「出せ。」
「は、あ…?」


リヴァイさんの言葉に、両手を差し出すと、私の右手をグィッ、と引っ張りリヴァイさんは歩き出した。


「お前、靴や服汚したくねぇならちゃんと前見て歩け。」
「す、すみ、ま、せん…。」
「ったく、」


ブツブツと言いながら、リヴァイさんは私の手を繋いで歩く。
それがどこか、申し訳ない反面、…すっごく嬉しかったりする、って言ったら今すぐ手を離されそうだから、口が裂けても言わない。


「あぁ、昼間はピアノ演奏だけなのか…。」


リヴァイさんが連れてきてくれたお店は、ちょっとしたステージの上に大きなピアノが置かれ、そこで綺麗な服を着たお姉さんが演奏している、なんと言うか、喫茶店にしても、私とリコちゃんが行くような場所とは一味違った場所だった。


「よく、来るんです、か?」
「…夜たまに、な。」


…リヴァイさん、こんなところまで飲みに来るんだ。
なら帰りが遅いわけだ、とか、そんなこと思うと同時に、そういうところに連れてきてもらえたことが、嬉しかった。


「夜も来てみたいです。」
「お前は駄目だ。」
「な、なんで、です、か?」
「自分の酒癖考えろ。」


…それを言われたら、なんと返してみようもなく…。


「…誰がこんなところ連れて来るか…。」
「……わ、たし、」
「あ?」
「お酒、飲まない方が、いい、です、か?」
「……俺がいるところ以外で飲むな。」


そう言ってリヴァイさんはコーヒーを口に含んだ。
……いや、うん、私が悪いんだ、と、思うんだ、けど、ね。
でも、せめてリコちゃんとはお酒飲みたいなぁ、とか(そんなこと言ったらきっともう部屋に入れてもらえなくなりそうだから言わないけど)
そんなこと思いながら紅茶を飲んだ。
客席が一瞬、ざわめいたと思ったら、ステージにもう1人女の人がやってきてピアノ演奏に合わせて歌を歌い始めた。
………なん、か、本当に、リヴァイさんが連れてきてくれただけあって、リコちゃんと行くお店とは違って…雰囲気が大人だ…。
リヴァイさん、このお店にまさか1人で飲みに来てるわけじゃ、ないよね?
じゃあ誰と来てるんだろ?
ゲルガーさん、の、わけないし、ミケさん?
うーん…、そこはやっぱりエルヴィンさんなのかなぁ…?
ハンジさん、なんてことも、ないと、思う、し…。
うーん、と思いながらチラッとリヴァイさんを見ると、


「…………」
「…………」


見事に目が合ってしまい、次の動作をどうすればいいのか一瞬でわからなくなってしまった…。


「お前の方が上手いな。」


リヴァイさんは目を軽く伏せコーヒーに手を伸ばしながら言った。


「そ、んな、こと、」
「お前の声の方が俺好みだ。」


口に運んだ後、かちゃん、と静かにコーヒーカップをテーブルに置くリヴァイさん。


「あ、りが、とう、ございま、す…?」


なぜか疑問系で返答した私に、リヴァイさんは何も言わなかった。
けどそれが、逆に良かったと思う。
初めてリヴァイさんに「自分好み」なんて言われて、どう対応したらいいのかわからない私は、耳に入ってくるお姉さんの声を聞くでもなく、ただジーッと、テーブルの上の紅茶を眺めていた。

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bkm

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